危機管理の難しさは、この切り替えが頭では理解できても、実際の現場で実行することが容易ではない点にある。災害は予告なく起き、情報が不足した状態で決断が迫られる。
責任感の強い管理職ほど、「店を守らなければならない」「会社の損失を抑えなければならない」と考え、平時の任務を最後まで遂行しようとする傾向も見られる。
しかし、その責任感が非常時には逆に危険を拡大させてしまう。また、従業員は上司からの指示を拒みにくい。店舗単位の指揮命令系統が施設全体の避難方針とずれていれば、館内放送や警備担当者が避難を呼びかけても、現場では「上司の直接的な指示」や「その場の空気感」が優先されかねない。
巨大商業施設には「二重の指揮命令」が存在する
今回の爆発事故において、対応を難しくさせていたのは、施設運営会社とテナント企業という二重の組織構造である。来訪客から見れば1つの商業施設でも、働く人たちの所属企業は異なる。施設管理者が避難を決定し、案内を行っても、テナント従業員は自社の店長や本部の指示にも従わなければならない。
イオンの吉田昭夫社長は、災害発生後に一度避難した後は建物内に入らないルールになっていると記者会見で説明していたが、現場では異なった指示がされていたとの報道もある。
平時には、この分業が施設運営の効率を高める。だが有事には、指揮命令が分裂する危険がある。施設側が「全員避難」を指示する一方、テナント本部が売上金の保全、レジの締め作業、商品の確認などを求めれば、従業員は矛盾する命令の間に置かれてしまう。

