ピカソでも、ダ・ヴィンチでも、北斎でもない。なぜマティスか。
鍵は「整いすぎた世界」という一語にあります。これは比喩ではなく、私たちの現在地そのものです。
生成AIに聞けば文法的に完璧な文章が1秒で返り、画像生成AIは写真と見紛う「正確な」絵を出力する。正確さとスピードの土俵で、人間はもうAIに勝てません。
そこにマティスの言葉が突き刺さります。「正確さは真実ではない」。
AIが描いた完璧な猫の絵と、子どもが画用紙いっぱいに描いた不格好な愛猫の絵。正確なのは前者です。しかし人の心を動かす「真実」を含むのは、後者かもしれない。そこには熱があるからです。
東大はこの問いを通じて、こう聞いています。
「君はAIになりたいのか、それとも人間として勝負するのか」と。
「38点(不合格)解答」から学ぶ「思考停止」の罠
以下が38点の解答ですが、文法的なミスは、じつはほとんどありません。
I think perfection is very important for success. If we make mistakes, people will think we are lazy or careless. Art and science both need accuracy, and without it we cannot make progress. So I believe we should try to be perfect as much as possible, even if itʼs difficult, because society expects precision from us.
私は、成功には完璧さがとても重要だと思います。もし間違えば、人々は私たちを怠け者や不注意だと思うでしょう。芸術も科学も正確さを要し、それがなければ進歩できません。だからこそ、たとえ困難でも、社会が私たちに正確さを求める以上、できる限り完璧を目指すべきだと考えます。
この解答者は、おそらく企業で言えばミスなく業務をこなせるけれど、「頭でっかちで型にハマった人」で、ビジネスやリーダーシップの観点から見ると、「代替可能」なコモディティ人財と判断されてしまいます。
この解答は、「社会の常識」や「既存のルール」を疑うことなく、そのままなぞっているだけです。「正確さが大事」というのは、AIが得意とする領域です。
マティスが「正確さは真実ではない」と問いかけているのに、「いや、社会では正確さが求められます」と答えているのです。
これでは、「問いの本質=時代の変化」を読み取れず、マニュアル通りにしか動けない「思考停止」の状態だと言っているようなものです。
「あなたにとって一番大切なものは何ですか?」と聞かれているのに、「一般的に、社会で価値があるとされているのはお金と地位です」と答えているようなもので、社会の「正しさ」や「一般的な価値」をトレースしているだけなんです。
だから、ブラッシュアップのヒントとしては、まず「安全な正解文」から脱出する勇気を持つこと。たとえば、「私が失敗したとき、学んだのは……」(When I failed, I learned something...)のように、自分の「物語」や「感情」を入れる練習から始めるべきです。
英語のスキル以前の、「思考のOS」の問題です。スマホでたとえるなら、スマホ本体に入っている「iOS」や「Android」のような基本ソフトのことです。
たとえば、みなさんが、単語や文法という「最新のすごいアプリ」をたくさんダウンロードしても、本体の「OS」が古かったり、設定がガチガチにロックされていたら、そのアプリの本当の力は発揮できない…、それと同じです。
この受験生は、「間違えてはいけない」「ルール通りが一番」という古いOSを使っている。だから、マティスが求めている「不完全さの価値」という最新のアプリ(=問い)を起動できないというわけです。
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知識があるだけでは、正解にはたどり着けない。大切なのは、与えられた問いをどう捉え、自分なりの視点で考え抜くかです。
では、同じ問いに対して「98点」と評価される解答は、いったい何が違うのでしょうか。
本記事の後編では、「65点の解答」と「98点の解答」を比較しながら、AI時代にこそ求められる「地頭力」の正体を、さらに掘り下げていきます。

