国内製薬大手の第一三共が、世界的な抗がん剤メーカーへ変貌しようともがいている。
かつて国内を中心に、脳梗塞や高血圧といった慢性疾患の薬を中心に展開してきた第一三共。いま目指しているのは、世界でトップ5に入る抗がん剤メーカーになることだ。今年5月には、2030年度にがん領域だけで2.3兆円超を売り上げる目標を発表。この規模感は、米ファイザーやスイスのノバルティスといった海外の巨大製薬企業(メガファーマ)に匹敵する。
抗がん剤領域へ舵を切るきっかけとなったのが、20年にアメリカで初めて発売された抗がん剤「エンハーツ」。ADC(抗体薬物複合体)と呼ばれる新しいタイプの医薬品で、がん細胞に向けてミサイルのように抗がん剤を発射することで、高い抗腫瘍効果を発揮する。
市場関係者が注目する"治験結果"
エンハーツは乳がんの治療薬として広く使われているが、胃がん、肺がん、さらにはそのほかの固形がんへと、矢継ぎ早に適応を拡大させてきた。結果、25年度の製品売上高は1剤で7000億円近くに達する。製薬業界では売り上げが1000億円を超える大型新薬をブロックバスターと呼ぶ。会社側が予想するエンハーツのピーク時売上高は1.6兆円ほどと、「メガ・ブロックバスター」級の成長を期待されている。
注目すべきは、エンハーツに使われているADC技術を応用し、さらに4つの新薬開発へとつなげていること。25年に発売された抗がん剤「ダトロウェイ」はその1つで、乳がんのみならず、患者数の多い肺がんでの適応拡大に向けて多数の治験が走っている。今年後半には主要な治験の結果が続々と判明する見通しで、市場からの注目はいや高まっている。
もっとも、ポートフォリオの急転換に伴い現場では混乱も起きている。4月には、25年度の通期決算発表を予定日の3日前になって急きょ延期すると発表。その理由は社外にはおろか、社内の管理職にすら、公表の直前まで明確に明かされなかった。市場には臆測と不安が広がり、延期発表翌日の株価は10%以上下落した。足元の株価は3000円を割り込む水準が続き、エンハーツへの成長期待から24年8月に記録した過去最高値(6257円)と比べ、半値以下に沈んでいる。
こうした混乱が起きた背景、市場に渦巻く不安の正体とは。欧米や中国勢などがADCの開発で猛烈に追い上げる中、技術的な優位性を保ち続けることはできるのか。東洋経済では、8月5日から「第一三共 『抗がん剤帝国』への苦闘」と題し、同社の奥澤宏幸社長や開発部門トップへのインタビュー、市場・医療関係者らの取材を基に、変革の現在地を浮き彫りにする。
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