ところが、理由はわからないが、けっこう最初から患者家族がお見えになった。5月に開業して8月くらいまではヒマだったけど、秋からは1日に100人くらいの患者さんが受診してくれるようになった。おかげさまで生活には困らず、運転資金の借金も繰り上げ返済でどんどん返すことができた。
その後、小さな波はいくつかあったけど、概ね平穏な開業医ライフだった。
ただし、2020年は新型コロナウイルスがパンデミックになり、クリニックは閑散とした。理由の一つは診療控え、もう一つは徹底した衛生管理で風邪をひく子どもが減ったことだろう。これはうちだけの問題ではなく、日本全国どこでも同じだったので仕方のないことである。
生存率60%の恐怖…53歳で膀胱がんにかかる
では新型コロナを除いて、ぼくのクリニックの最大の危機は何だったであろうか。それはもうコレしかない。ぼくが53歳で膀胱がんにかかったことだ。
膀胱がんは2回再発し、3回手術を受けた。当時のデータでは膀胱がんの生存率はおよそ60%。つまり40%は亡くなるということだ。この数字は恐怖だった。治療の副作用にも苦しめられた。
今から思うと、よく闘病とクリニックの運営を両立できたなと思う。当時は、クリニック存亡の危機という意識だった。
この闘病の具体的な様子は『ぼくとがんの7年』(医学書院)に書いた。闘病記というものは、病気のリアルをとことん詳しく書くことと、そのときの患者心理を深く掘っていくことが大事だと、ぼくはいつも思っている。だから、そういうことを意識して書いた。稀代の読書家で、作家で、大阪大学病理学の前教授の仲野徹先生にこの本をメチャ褒めていただいたことは、本当にうれしかった。
しかし、この本に書かなかったことがある。それは痛みについてである。

