日本銀行の金融政策正常化は、政策金利だけの問題ではない。長年の大規模緩和で膨らんだ日銀のバランスシートを、どのようなリスク管理の下で運営していくのかが問われている。その中で見落とされがちなのが、気候変動や自然資本の劣化が金融資産に及ぼすリスクである。
日銀は2021年に気候変動に関する包括的な取り組み方針を公表して以降、市場中立性に配慮しながら、民間金融機関の取り組みを支援してきた。この姿勢は、中央銀行が特定産業を選別するとの批判を避けるうえで重要だった。しかし、GX(グリーントランスフォーメーション)戦略の進展、気候関連金融商品の拡大、巨額ETFの売却方針が決まった今、市場中立性を単なる現状維持ではなく、リスク管理の観点から捉え直す必要がある。
政府の「グリーントランスフォーメーション(GX)戦略」が進展するなか、日銀が2025年9月に発表した巨額のETF等の複数年売却方針は、長期的な企業スチュワードシップやポートフォリオの環境適合性という重要な課題を浮かび上がらせている。
環境リスクの反映の必要性
環境リスクが市場価格に十分反映されていない場合、市場構成を機械的に模倣する中立性は、結果として投資ポートフォリオが高炭素企業に偏りやすい「炭素バイアス」を日銀の金融オペレーションに持ち込むことになる。これは環境政策の問題にとどまらないリスクを日銀にもたらす。というのも、脱炭素への移行対応が遅れた企業の信用力や市場価値が将来低下すれば、担保、ETF(上場投資信託)、金融機関の貸し出しを通じて、日銀自身のバランスシートと金融システムにも影響が及ぶからである。
日銀は、環境変化が金融システムに与えるリスクと、金融が環境に及ぼす影響の双方を踏まえ、民間の取り組みを促すだけでなく、自らのリスク管理にも環境リスクを反映させる必要がある。これは中央銀行の権限を逸脱するものではなく、物価の安定と金融システムの安定を守るためのリスク管理上の対応として説明できる。
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