さらに、やはり最近関係が少し複雑になっていた長女ローデスが、「一緒に歌を書こう」と言ってくれた。それらの要素が集まり、ひとつのアルバムとして形を成したのである。
悔しい体験は、別の形でも活かした。Apple TVの「ザ・スタジオ」第2シーズンのネタに使われることになったのだ。マドンナは、伝記映画の企画がボツになってフラストレーションを感じている自分自身を演じる。
セス・ローゲンがクリエイターと主演を兼任するこのシリーズは、ハリウッドの実情を、リアルかつブラックユーモアたっぷりに描くことがうけて、エミー賞はじめ重要な賞を総なめした傑作。第1シーズンには、マーティン・スコセッシ、ロン・ハワード、オリヴィア・ワイルドらが自分役で登場している。
マドンナにとっては、コメディの才能を見せるチャンスだ。『プリティ・リーグ』『エビータ』など出演作は何本かあるが、自虐的なギャグで笑わせることができれば、女優としての評価は高まるだろう。
それ以上に、この不条理な状況を広く知らしめ、どこかから助け舟が現れて、再び企画に勢いがつけばという思惑も、彼女の中にあるのではないか。
60代とは思えない肉体、だが若い頃と同じではない…
3年前、マドンナは、世界ツアーを前にして重度の細菌感染症を患い、集中治療室で数日を過ごすという恐ろしい体験をしている。深刻な状況を受け、過去に親権問題で揉めたロンドン在住の長男ロッコ(当時15歳だった彼は、母でなく父ガイ・リッチーと住むことを選び、マドンナを悲しませた)を含め、6人の子どもたちは全員病院に駆けつけた。その後、健康を取り戻し、無事にツアーを完了したが、人生のはかなさをあらためて思い知らされたことは想像に難くない。
最近の彼女は、ワークアウトも以前ほど激しくはしていないという。「長年、ハイヒールでダンスをしたり、コンクリートの上でランニングをしたり、アシュタンガヨガを練習したりして、膝を悪くした」からとのこと。60代とは思えない肉体を誇っていても、若い頃と同じではない。シビアな現実を、彼女はおそらく日々感じているのではないか。
彼女は今、レガシーを考える段階にあるのだ。自ら手がける伝記映画という形で、自分の人生を後世に向けて残すのは、何にも増して理想的である。これは、最もパーソナルな大プロジェクト。これまでずっと、高い野心を掲げては成功に導いてきたマドンナは、つまずいたままのこの企画でも、それをやってみせられるのか。そして、映画が完成し、プレミアのレッドカーペットを歩く時、隣にはどんな男性がいるのか。伝説のスーパースターの力が試されている。

