「効率を考えたら、圧倒的にこっちのほうがいいですよ」
若手営業のSさんは、そう言い切った。
上司の課長は、部下が作った提案書を見て、なんとも言えない違和感を覚えていた。文章は流暢で、構成も整っている。しかし、どこか他人事のような、薄っぺらさを感じてしまうのだ。
「AIで作った提案書は、本当にお客様の心に響くのだろうか」
そう課長が尋ねても、Sさんは納得しない。「時間もかからないし、内容だって遜色ないはずです」。その主張にも、一理ある。しかし、課長の違和感は消えなかった。
一見完璧に見えるAI提案書が、なぜ顧客の不信感を買い、思わぬ「商談破談」を引き起こしてしまうのか。
そこで今回は、AIが作った営業提案書がなぜお客様に響かないのか、その理由を心理学や調査結果をもとに解説する。営業提案にAIを活用しているビジネスパーソン、そして部下の提案書指導に悩む管理職も、ぜひ最後まで読んでもらいたい。
広告の世界でも、同じ現象が起きている
まず、広告業界で行われたある調査を紹介したい。
イプソスとシラキュース大学が共同で、アメリカの消費者3000名を対象に大規模な調査を実施した。20本の広告のうち、半数を人間が制作し、半数をAIが制作した。それを消費者に見せ、反応を比較したのだ。
結果は興味深いものだった。AIが作った広告だと気づいた人は、わずか25%。40%の人は「人間かAIか、まったく分からない」と答えた。見た目では、ほとんど区別がつかないレベルに達していたのだ。
しかし、実際のビジネス成果には、はっきりとした差が出た。人間が制作した広告は、短期的な効果で14%、長期的な効果で17%、AI制作の広告を上回ったのだ。
なぜ、見分けがつかないのに効果には差が出るのか?
理由は、AIが「創造」ではなく「合成」をしているからだ。AIは学習データの中から最も確率的に正しい組み合わせを選び出す。だから、無難で予測可能な仕上がりになる。ストーリーテリングや感情に訴える表現、独自の視点が求められる場面では、途端に苦戦してしまうのだ。
これは、営業提案書にもそのまま当てはまる話だ。定型的な情報提供なら任せられるが、お客様の心を動かす場面では、人間の役割が欠かせない。

