課長が覚えた違和感には、実のところ心理学的な根拠があるようだ。
心理学に「労力正当化効果」という現象がある。同じ文章、同じ提案内容であっても、「人間が時間をかけて書いた」と伝える場合と、「AIが数秒で生成した」と伝える場合とでは、後者への評価が著しく下がることが実験で確かめられている。
お客様は、提案書の完成度だけを見ているのではない。「自社のために、どれだけの時間と熱量を割いてくれたか」という、営業プロセスそのものへの誠意を見ているのだ。
相手の心を動かすもの
これは営業の世界では、よくあることだ。長く営業の世界で仕事をした人なら分かるはずだ。
「電話で済むのに、わざわざ来なくても」
「そこまで言うなら、検討します」
労力をかけたという証を見せることで、相手の心は動いてしまうもの。だから営業は「汗をかけ」と言われるのだ。営業が「精神論」を大事にするのは、それほど的外れではないのだ。
また、「個別化の嘘」を見抜かれるという点も無視できない。提案書というのは、広告と違う。一般論を書くべきでない。お客様特有の課題解決に向けた内容でなければいけないのだ。
なのにAI特有の一般的な正論や型通りの文章が並んでいると、お客様は「パーソナライズされているように見せかけた大量生産品」だと気づいてしまう。内容の良し悪し以前に、不信感が先に立ってしまうのだ。
AI製だと分かってしまったとき、お客様の心にはどんな反応が起きるのか。大きく3つの反応がある。
(2)責任を負う覚悟がないと判断される
(3)他社との違いが分からず、印象に残らない
それでは、一つひとつ解説していこう。
特に重要な決裁者ほど、「AIにプロンプトを1行入れただけで、大金が動く決断をさせようとしているのか」と、自社や自分自身を軽視されたように感じる。たとえそうでなくても、そのような印象を抱かれる、ということだ。
AIの文章は論理的で滑らかだ。しかし「尖った提案」や「自分がその責任を負う覚悟」が抜けがちになる。お客様は「この営業はAIの後ろに隠れていて、トラブルが起きたとき責任を取らないのではないか」と思い込んでしまう。
競合他社も同じAIツールを使っている可能性は高い。AI任せの提案書は、どこかで見たような平均的な構成になりやすい。お客様の印象に残らず、「他社と何が違うのか分からない」と切り捨てられてしまう。

