韓国のSKハイニックスは、一般にはまだ広く知られた企業とは言えない。だが、20年前には存続の危機に直面していたこのメモリー半導体メーカーは、現在ではサムスン電子に次ぐ韓国第2位の時価総額を持つ上場企業となった。
AIブームを背景に先端メモリー半導体への需要が急拡大し、SKハイニックスの株価は2025年初め以降、およそ13倍に上昇。時価総額は5月に1兆ドル(約162兆円)へ達した。
7月10日には、SKハイニックスの米国預託証券(ADR)が米ナスダック・グローバル・セレクト・マーケットで取引を開始し、さらに幅広い資本市場へのアクセスを獲得した。上場初日は旺盛な需要を集め、ADRは公募価格を約13%上回って取引を終えた。
SKハイニックスとは
SKハイニックスの起源は1983年にさかのぼる。当時、韓国有数の財閥である現代グループが、電子機器産業の世界的なブームを背景に、半導体などの戦略産業育成策の一環として現代電子産業を設立したのが始まりだ。同社は当初、コンピューターのプロセッサーが高速処理に使うデータを一時保存するダイナミック・ランダム・アクセス・メモリー(DRAM)を主力製品としていた。
製造工場への大規模投資と先端半導体製造技術への積極投資により、現代電子は1990年代までに世界有数のDRAMメーカーへ成長した。
しかし、この積極的な拡大戦略は1997-98年のアジア通貨危機で大きな重荷となった。メモリー半導体価格の下落と債務の膨張により、現代グループは大規模な事業再編を余儀なくされ、その過程で2001年にハイニックス・セミコンダクターへ社名変更した同社は、その後10年近く債権団の支援に依存する状況が続いた。2002年には米半導体メモリー大手のマイクロン・テクノロジーへの売却が目前まで進んだが、最終的に交渉は破談となった。
転機は2012年に訪れた。エネルギーや通信事業を展開する韓国SKグループが債権団から経営権を取得し、社名をSKハイニックスへ変更した。
翌2013年には、米半導体設計会社アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)と共同で、世界初の広帯域メモリー(HBM)を開発した。複数のDRAMを垂直に積み重ねることで、消費電力を抑えながら飛躍的に高速なデータ転送を実現した。
なぜ企業価値が高いのか
メモリー半導体は長年にわたり、パソコンなど電子機器の需要に応じて価格が大きく変動する典型的な景気循環型産業だった。利益変動の大きさと半導体工場建設にかかる莫大(ばくだい)な投資負担により、多くの競合企業が市場から撤退し、現在では韓国のサムスン電子とSKハイニックス、米国のマイクロン・テクノロジーの3社が市場を支配している。
現在、メモリー半導体はスマートフォンやゲーム機、自動車、家電製品など幅広い製品に搭載されている。しかし、業界の収益構造を一変させたのはAIだった。AIシステムが大規模化・高度化する中、データセンターでは先端メモリーの需要が急増し、供給不足が深刻なボトルネックとなっている。
SKハイニックス製品への需要が特に強いのは、同社が先駆けて開発したHBMが、アンソロピックの対話型AI「クロード」やOpenAIの「ChatGPT」など米国の主要AIプラットフォームの学習・推論に使われるプロセッサーに不可欠な部品となっているためだ。SKハイニックスは、こうしたプロセッサー(一般にAIアクセラレーターと呼ばれる)を設計する最大手エヌビディア向けHBMの最大供給企業となっている。
ライバルとの競争は
市場調査会社トレンドフォースによると、SKハイニックスは世界HBM市場の推定51%を占め、首位を維持している。サムスン電子は約26%、マイクロン・テクノロジーは約23%となっている。
もっとも、3社はいずれも生産能力拡大へ積極投資を進めており、競争は激しさを増している。サムスン電子とSKハイニックスは韓国内にそれぞれ2カ所の新工場を建設し、総額800兆ウォン(約86兆円)を投資する計画を発表した。マイクロンも2035年までに米国で2500億ドルを投資する方針だ。
各社はAI向けで最も高速かつ高性能なメモリー開発でも競争を繰り広げている。次の主戦場は最新世代のHBM4で、従来製品を上回る性能と容量を実現するものとなる。
HBM4は、エヌビディア次世代AIプラットフォーム「ベラ・ルービン」に採用され、次世代AIデータセンターの中核となる見通しだ。サムスン電子は2月に初の商用HBM4をエヌビディアへ出荷して先行したが、その後は3社全てがベラ・ルービン向けHBM4の認証を取得し、生産段階へ移行している。ベラ・ルービンを搭載したAIシステムの出荷は2026年後半に本格化する見込みだ。
米国上場の仕組みは
SKハイニックスは急成長を受け、ナスダックでADRを上場することで世界の投資家基盤の拡大を目指した。
ADRは、米国外にある企業の株式に対する所有権を示す、米国上場証券だ。投資家は本国市場で直接売買することなく、米ドル建てで米国市場を通じて外国企業株に投資できる。
SKハイニックスにとって今回の上場は、世界の投資家からの株式へのアクセスを容易にするとともに、事業拡大に向けた資金調達につなげる狙いがある。開示資料によると、調達資金は新工場建設や、最先端半導体の製造に使用する極端紫外線(EUV)露光装置など先端製造設備の導入に充てられる。
ADRの1単位は普通株0.1株に相当する。SKハイニックスは1億7790万ADRを1単位149ドルで売り出し、265億ドルを調達した。これは時価総額の約2.5%に相当し、外国企業による米国上場として過去最大規模となった。
ADRの初日終値は、ソウル市場に上場する普通株に対して約15%のプレミアムとなった。一方、米韓市場間の価格差を利用する裁定取引や短期的な利益確定売りにより、ソウル上場株は短期的に下押し圧力を受ける可能性があると、ソウルの教保生命保険のアクティブ株式運用責任者、ジェイソン・ミンサン・カム氏は指摘した。
原題:How Korea’s SK Hynix Became a Trillion-Dollar Company: Explainer(抜粋)
--取材協力:Sangmi Cha.
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著者:Yoolim Lee

