塾の標準的な仕組みは、この力を育てる方向とは少しずれているのかもしれません。
- わからない問題 → 即座に解説 → わかった気になる
- 月1回のテスト → 次のテストへの対策だけ考える
- 質問 → 即答 → 自分で悶々とする時間が減る
Sさんの「映像を止める」、Mさんの「集団塾を離れる」という選択は、まさにこの力を取り戻すための工夫だったのです。
そして、ネガティブ・ケイパビリティは難関大の二次試験だけに役立つスキルではありません。
短期的な安心よりも社会で役立つ「問いを抱え続ける力」を
有名大学に合格するのは喜ばしいことですが、そこからすべて順風満帆にいくわけではありません。大学にいるのは、同じように勝ち抜いてきた同レベルの集団です。
学問のテーマ、人間関係、就職活動、人生設計、そして社会に出た後の本当に難しい問題――どれも5分では答えが出ず、誰かが採点してくれるわけでもありません。そこで問われるのは、問いに長く取り組む力です。
「有名塾に入れた」で安心するのは、お金で安心を買うようなものとも言えます。
しかし人生で真に乗り越えるべきことは、たいてい曖昧で不安を呼ぶような問題です。「どこがダメかわからない」「まだ答えが出ない」――こうした宙吊りの状態を抱え続けることこそが、ネガティブ・ケイパビリティを育てる土壌なのだと、2人の話を聞いて確信しました。
2人に受験当時の自分にひと言かけるなら?と聞きました。
Sさんは「解説を聞くたびに、それを自分の答案にどう持ち帰るか考えること。それが塾を生かす唯一の姿勢」。
Mさんは「わからないことを、その日のうちに解決しなくていい。1カ月抱えていてもいい。その方が本物の力になる」。
“問いに耐えられる子”と“即答を求めてしまう子”のどちらがいいか。長い人生において、それは明白だと思います。そして家庭が、そして保護者自身が「わからなさ」に耐える必要があるとも言えるのかもしれません。



