「次の石山さんの展覧会に原稿を持っていくと、後日、事細かく赤字を入れて手紙とともに送ってくださいました。石山さんのアドバイスに従って、半年くらいかけて直して、それをまた送るとまた赤を入れてくださいました。それを5回ほど、2~3年繰り返して、ようやく『まあこんなものでいいだろう。もう自信を持っていい』と言ってもらえました。50をすぎたらさすがに何か形にしないと、今までこだわっていたものが全部なかったことになると思っていました。それまでは文化的な消費しかしていなかったので、作る側に行かないと潰れるという恐怖がありました。そこに石山さんが現れていろいろ助けてくださいました」
石山氏からの激励もあり、早く世に出したいと思った宮本さんは、新人賞への応募をやめて出版社への持ち込みに切り替えます。複数の出版社に電話したりメールしたりする中で、作品に良い反応を示した書肆侃侃房から刊行が決まり、57歳にしてついに処女作『カラスに似た足指』が2026年の6月に世に出ることになりました。
29年かかっても…
29年間書き続けてきた原動力を語る中で、宮本さんは「浪人時代の経験が小説の核心に直結している」と話してくれました。
「浪人の時に、みんななんとなく仲良くやっているけどそんなに仲良くないよなという気持ち悪さを感じていました。今回の作品は、馴れ合いの仲良しこよしじゃない、ザラザラした人間関係を書きたいと思って書いたのですが、その感触をはっきり掴んだのが浪人時代でした。絶対に理解し合えない人間関係や、断絶や永遠の別れといったハードな関係性を書いていますが、あの感触がなければ書けなかったかもしれません」
「一人で自分と向き合わないと、勉強はできるようにならないのは小説も同じ」と語る宮本さんの言葉には、浪人から始まった孤独な自己対話が、その後もずっと途切れていなかったことが滲んでいます。
29年かかっても、やりたいことがあれば続ければいいことがあるということを、57歳の宮本さんは静かに、確かに体現していました。

