大手ドラッグストアの出店後、西尾さんは地元商工会の指導員とともに近隣スーパーの特徴をグラフ化して分析した。価格帯や品揃え、店舗の特性などを比較してみると、多くの店が同じポジションに密集しており、「スーパーやまにし」もその一角にいた。
「同じ土俵で戦っていてはダメだと思いました。週に3回スーパーへ行く人がいるなら、そのうち1回だけでも『何か面白いものがあるかもしれない』と思って来てもらえるような店にしようと考えました」(西尾さん)
ターゲットに据えたのは、「30代から60代の食に関心のある女性」。商圏は半径30キロ、車で30〜40分の中津川市中心部と恵那市、下呂市を想定している。毎日買い物へ行くスーパーではなく、少し良いものを探しに行くスーパーを目指したのである。
自家製みそとたまりしょうゆが店の名物に
それを象徴する商品が、自家製のみそとたまりしょうゆだった。もともとは祖母が家庭用に仕込んでいたもので、この地域では珍しい文化ではなかった。しかし、手間がかかるため、自家製みそを仕込む家庭は減っていた。「売ってほしい」という声もあり、倉庫の一角を改装して保健所の許可を取得。商品として販売を始めた。
国産大豆を使い、1年かけて熟成させる昔ながらの製法。当然ながら効率は悪い。評判は良かったものの、利益はあまり残らなかった。それでも、このみそとたまりしょうゆが店の名物になっていく。さらに、このたまりしょうゆを使った「鶏ちゃん」を商品化したところ、これがヒット。道の駅への卸販売も始まり、店の経営を支える主力商品へと成長した。
地方のスーパーを取り巻く環境は年々厳しさを増している。人口減少と高齢化が進み、大型スーパーやドラッグストアは地方へも進出した。かつて地域の暮らしを支えた町のスーパーが姿を消しつつある。
農林水産大臣賞を受賞しても、西尾さんは大型店に勝ったとは考えていない。同じ土俵では戦えないと認めたうえで、「食のよろこび」という別の価値を作ったのだ。人口減少時代の地方小売りにおいて、その戦略はむしろ合理的なのかもしれない。
地方の小さなスーパーの挑戦は、今も続いている。

