アップルは普段、新製品の価格を発表イベントの当日まで一切明かさない。事前にうわさが飛び交っても、アップル自身が「次は値上げします」と先回りして口にすることは、まずない。
だからこそ、新製品の発表を待たずにクック氏が値上げを公言したこと自体が異例だ。これは業績の説明にとどまらず、消費者と市場に向けた予告であり、警告とも読み解ける。社長退任を26年8月末に控えたクック氏が、最後にこのメッセージを残した点も意味深い。
ここで他社の動きと比べると、その異例さがより際立つ。たとえばマイクロソフトは、値上げを公言せずに「Surface」シリーズの価格をアメリカのオンラインストアで静かに引き上げた。100ドルから500ドルもの値上げを、目立つ告知なしに実施したのである 。値上げを“黙って実行する”マイクロソフトと、“あえて事前に語る”アップル。同じコスト高に直面しながら、消費者への伝え方は対照的だ。これは優劣ではなく、ブランドの消費者との向き合い方の違いといえる。
犯人はAI、メモリを奪い合う「大洪水」
では、なぜ半導体価格がここまで上がったのか。犯人は、いま世界中で建設が進むAIのデータセンターである。
生成AIを動かすには膨大なメモリが必要で、なかでも「HBM(広帯域メモリ=大量のデータを高速にやり取りできる高性能メモリ)」が欠かせない 。サムスンやSK hynix(SKハイニックス)といった主要メーカーは、利益率の高いこのAI向けメモリを優先してつくっている。その分、私たちのスマートフォンやパソコンに使う一般的なメモリ(DRAM)やストレージ(NAND)の生産が後回しになり、品薄になって値段が跳ね上がった。
その上がり方は普通ではない。DRAMの取引価格は1年でおよそ2倍になり 、サムスンは26年春からの3カ月だけでメモリ価格を平均約30%引き上げたと報じられている。ここで重要なのは、サムスンが「メモリを売る側」と「スマホをつくる側」の両方の顔を持つことだ。同社は値上げしたメモリで利益を得る一方、自社のスマートフォンでは原価高に苦しむという、複雑な立場に置かれている。

