銘柄を1つ加えるたびに、審査、流動性の確保、日々の運用、資産を守るセキュリティー体制が必要になる。自前化も検討したうえで「スピード感と安全性を両立させたときに、他社と組むのがいちばん合理的だと判断した」という。
固定費を大きく増やさず、利用者に提示できる銘柄数を一気に増やす。相場低迷局面でも取りやすい拡張策だった。
もっとも、丸投げではない。メルコイン自身も暗号資産交換業のライセンスを持ち、ビットコインなど既存3銘柄は「まずはわれわれが運用していく。モニタリングしながら、また判断していきたい」と自社に残した。
収益の分け方も身軽だ。コインチェックが受け取るのはAPI(異なるソフトウェアやアプリ間で機能やデータを共有するための仕組み)の利用料ではなく、新規の12銘柄の取引で生じるスプレッドの一部。取引が増えるほど両社が潤うレベニューシェアで、中村氏によれば「構造上はメルコイン単独でのビジネスとかなり近い」という。
一方のコインチェックは、広告費を投じて新規顧客を奪い合う代わりに、400万口座を抱える日常アプリの裏方に入る。基盤を外部に開くCaaS(クリプト・アズ・ア・サービス)は、組み込み型金融の暗号資産版である。井坂氏はターゲットを金融機関からゲーム・エンタメまで幅広く想定し、強みを取引の流動性と30以上という取扱銘柄数に置く。
税制・金商法改正を見据えた先行投資
追い風は制度面でも吹いている。6月1日に始まった「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業」は、交換業ライセンスを持たない事業者がこの基盤に乗るための枠組みだ。交換業以外の事業者が仲介業の登録を得て交換業者と組む流れを見据え、井坂氏は今回の取り組みが「1つの大きなやり方として、デファクト(スタンダード)のような形になればいい」と語る。
この提携は、2社の個別案件にとどまらない。消費者接点を持つアプリ事業者と、交換業インフラを持つ事業者が分業するモデルと見れば、暗号資産サービスの組み込み型金融化の先行例といえる。
価格の面では“冬の時代”が到来する一方、制度は一足先に“雪解け”へ向かいつつある。
