こうした“現在地”の中でも、経営課題の筆頭としてオリコンと丸の内キャピタル(三菱商事系のファンド)が挙げたのが、「AIの進化や検索エンジンの変化による“ゼロクリック化”への対応」だった。ゼロクリック化とは、検索結果やAIが画面上で答えそのものを示してしまい、ユーザーが記事をクリックしなくなる現象を指す。これはネットメディアにとって、収益の根幹を揺るがす最大級の脅威だ。
多くのニュースサイトは、SNSやポータルサイトから流れてくる“一見さん”のPVに広告収益を依存している。雑誌のように固定客に買ってもらうモデルと違い、クリックされなければビジネスが成り立たない。その入り口をAIに塞がれることの意味は、計り知れない。
「無料で読めて当たり前」も、もう限界に近い
筆者の経験からしても、長年続くネットメディアの中には、「ターゲット層がそのまま年を重ねている」ケースが少なくない。新規読者を取り込めないまま、流動的なPVを追ってスピード勝負に明け暮れ、その過程でチェック機能がやせ細っていく――今回の“早とちり”も、この構造と無縁ではないはずだ。業界全体の収益構造が誤報の温床になっていることは、間違いない。多くの媒体がそれを懸念しながらも、SNSやポータル、そしてAIの影響力の前に、抜本的な手を打てずにいる。
そう考えると、自社のコア読者層の課題に正面から言及し、MBOという大手術に踏み切ったオリコンは、むしろ動きが早いほうだと言える。意図的になのか、無策ゆえか。現状維持のまま、静かに衰えていくメディアを、筆者は数多く見てきた。「変わる決意」を持てる媒体にこそ、生き残りの余地があるはずだ。
ただ、多くの媒体は「このままでいてほしい」という願望から抜け出すことが難しい。まるでサグラダ・ファミリアの建設と同じように、「それが当たり前」となっている以上、認識を変えるのは並大抵のことではないのだ。
そして、“当たり前”にとらわれているのは、メディア側だけではない。読者もまた、少しずつ認識を改める必要がある。「あらゆるニュース記事は無料で読めて当然」――日本のネットユーザーにとって、これもまた揺るがぬ常識だ。
だが、その“無料が当たり前”こそが、PV至上主義を生み、釣り見出しや早とちりの温床になってきた側面は否めない。「サグラダ・ファミリアは完成しない」という常識が崩れたように、「ニュースは無料」という常識もまた、静かに限界を迎えつつある。 収益と利便性のバランスを、どう取り直すか。今回の“誤報騒動”は、その問いを私たちに突きつける、思いがけない好事例となったと言えるだろう。
