解剖が終わったあとには、警察に対して解剖結果を説明するとともに、死体検案書(医師が死亡に立ち会わない場合に発行する、死亡診断書に相当する書類)にまとめるデスクワークが残っています。解剖のペースは平均すれば3日に1体ほど。時間がかかるうえ集中力を要する作業であるため、基本的には1日あたりの解剖数は多くても2体までと決めています。ただし、一家全員が火災に巻き込まれて3体を解剖せざるをえない、といったケースは例外ですが。
ドラマやマンガなどのフィクションの世界では、死因究明のために遺体を検分することを「検死」と表す作品を多く見かけます。しかし、法医解剖医や警察は、基本的にこの用語は使用しません。その代わり、「検視」という用語を使っています。検死と検視、どちらも読みは同じですが、実は明確な違いがあるからです。
まず、「検視」とは主に警察官が、死体や現場の状況を調べて犯罪の有無を判断する「捜査活動」を指します。この検視を行えるのは、通称「検視官」と呼ばれる死体検査専門の警察官に限定されます。
では、「検死」とは何かというと、実はこちらは明確な定義はありません。あえて言えば、検視・検案・解剖を包括した広義の一般用語、といったところでしょうか。「検死」のほうが雰囲気としてはそれらしいのでフィクションの世界では使われやすいのですが、法律用語である「検視」とは異なり一般用語であるため、法医解剖医や警察官が使うことはほぼありません。
検案と解剖の違いは?
もうひとつ、混同されやすいのが「検案」です。正確には「死体検案」ですが、略してこのように使われます。検案とは、医師が遺体の外表面を診て、病歴や状況から死因や死亡時刻を医学的に判断することを指します。外から診るのみですから解剖は含みません。遺体を切開して内部を詳しく調べる「解剖」は、基本的には検案でも死因がわからなかった遺体に対して行われます。
ちなみに、「死亡診断書」と「死体検案書」も似て非なるもの。死亡診断書は生前にその人を診察していた医師が作成しますが、死体検案書はその人が死体となってから調べた医師が作成するものとして区別されています。ただし、どちらも様式は同一であり、標題は「死亡診断書(死体検案書)」とあるため、どちらか使わないほうを二重線で消して記入する形になります。
フィクションの世界で人気なのは「検死」、警察が捜査で行うのは「検視」、医師が外側から医学的に診るのが「検案」、内部を調べるのが「解剖」と覚えておけば間違いありません。

