東洋経済オンラインとは
キャリア・教育

「歴史はどこから始まるのか」日本とアメリカの教科書"原爆めぐる景色の違い"が示す歴史教育の長い道のり

8分で読める
教科書の一行が変わるだけで、次の世代が見る歴史の景色は大きく変わります(写真:Hakase/PIXTA)
2/4 PAGES
3/4 PAGES

もっとも、アメリカの教科書にも当然ながら多様性があります。近年では授業用教材として、賛否双方の史料を比較しながら検討させる設計の学習資料も提供されるようになりました(ハリー・S・トルーマン大統領図書館・博物館の教材など)。

こうした教育現場での試行錯誤と無関係ではないのでしょう。原爆投下に対するアメリカ国内の世論は、ここ数十年でゆっくりと、しかし確実に変化してきました。

ピュー・リサーチ・センターが、広島・長崎への原爆投下から70年目の節目に行った2015年の電話調査では、原爆投下を「正当だった」("was justified")と答えたアメリカ人は56%、「正当ではなかった」と答えた人は34%でした。

ところが、80年目にあたる2025年6月の同センターの調査では、その数字が様変わりします。「正当だった」は35%にまで低下し、「正当ではなかった」は31%、「わからない」が33%と、世論はほぼ三等分される状況になっているのです(Pew Research Center, 2025年7月28日)。

とりわけ顕著なのが世代差です。65歳以上では今なお48%が「正当だった」と答える一方、30歳未満では、「正当だった」が27%にとどまり、「正当ではなかった」と答えた人が44%に達しています。10年前の同じ調査では、18〜29歳の47%が原爆投下を「正当だった」と答えていたことを思えば、若年層の感覚はこの10年で大きく塗り替わったと言ってよいでしょう(Pew Research Center, 2015年8月4日)。

この静かな変化の背景には、歴史教育の現場で、従来の「本土侵攻を回避するためにやむをえなかった」という単線的な物語ではなく、複数の視点を提示し、原爆投下の是非を生徒自身に考えさせる授業が少しずつ増えてきていることがあります。

教科書の一行が変わるだけで、次の世代の歴史の見え方は、ここまで変わりうる――そのことを、この数字は静かに物語っています。

ドイツ、オーストリア、韓国

視野を広げて、他の国にも目を向けてみましょう。

自国の負の歴史とどう向き合うか。そのスタンスは、まさにその国の人格を映す鏡のような存在です。

ドイツ:「過去の克服」を国家の前提に据えた国

ドイツの教科書は、ナチスによるホロコーストと第二次世界大戦の加害責任を明確に記述することで、世界的に知られています。

その姿勢を象徴するのが、ドイツ語の「Vergangenheitsbewältigung(過去の克服)」という言葉です。過去から目を背けるのではなく、向き合い、引き受ける。この理念を、戦後ドイツは歴史教育の中心に据えてきました(UNESCO "Teaching about perpetrators of the Holocaust in Germany")。

4/4 PAGES

こちらの記事もおすすめ

あなたにおすすめ

キャリア・教育

人気記事 HOT

※過去1週間以内の記事が対象