「ここ最近、素描試験を独学で突破した合格者はいないという話を入学してから聞いたので驚きました。合格した時は喜びよりも安堵の気持ちが大きかったですね。今回の出来でダメだったら藝大との相性が悪いんだなと思えるくらい、納得した作品を用意したつもりでした。僕の作品はおそらく不格好で整っていなかったと思います。それでも、地方でもがきながら作り上げた表現が藝大の教授が受け止め、そして評価してくれたことはやっぱりうれしいですし、感謝しかないです」
これからのテーマ「教育とアートの接続」
現在、東京藝術大学美術学部先端芸術表現科に通いながら、2度目の大学1年生として学ぶ小森さん。
再受験してよかったことを聞くと、「好きなものに蓋をしないで挑戦し切ったこと、年が離れた人たちと肩を並べてアートを共に学べる機会を得られたことが収穫」、頑張れた理由は「受験勉強という意識で臨まなかったから」と答えてくれました。
「藝大先端は、それぞれの背景や専門領域、思想によって築かれた知覚世界が、一つの空間に併存することを受け入れてくれる場だと感じています。僕たち24人が持つ世界は大きく異なるし、重なり合うこと決してないと思います。でも、お互いの世界が違うということを了解した上で、それでもなお『共にあること』を望もうとする人ばかりです。そうした彼らと共に美術を学べているのは本当に幸せなことですし、互いにいい影響を与え合いながら仲良く過ごしていきたいなと思ってます」
今後の展望について聞くと、教育とアートの接続という方向性を語ってくれました。
「情報格差の深刻さもありますが、今の子どもたちは受験の早期化もあって、素材を触った時の手触りを楽しんだり、無駄と思える時間を過ごしづらい環境、時代にいると思います。
僕は小さい頃から自然の中で過ごし、自分の身体を通してでしか得られない経験をたくさんしてきました。『知っている』と『分かる』は違うと思うんです。頭だけでの理解はただただ物事を『知っている』だけで、そこに自分の身体感覚を通した固有の体験としての『分かる』がないような気がしていて。僕はそういう体験の一助をアートが担えるのではないかと思っているんです。
机の上でやる勉強も大事だけど、頭ばっかり使うのではなく、自分の身体を通した世界との対話を楽しむことも大事だと思います。こどもたちが豊かに成長していくにはどうするべきか、そうしたことを教育に携わる中で考えていきたいです」
安定した公務員という立場から、自分の表現を突き詰める道を選んだ小森さん。「受験勉強でなく、自分の探求として向き合った」というシンプルな言葉の中に、どんな逆境でも前進できる核心が宿っていました。
