――育児グッズの影響についても、現場からは懸念の声が上がっているそうですね。
育児グッズの中には、乳児の発達に関する知識の裏付けが乏しいまま、親の利便性や企業利益を優先して開発されているものもないとは言い切れません。因果関係が証明できるわけではありませんが、本来の自然な「抱っこ」の姿勢が取りにくいものや、自然な発達を阻害する恐れがあるものが、乳児の身体の緊張を高めている可能性は否定できません。
「医療者・研究者」と「現場の専門職」に認識の乖離
――現場がこれほどの異変を感じているのに、なぜ公的な対策が進まないのでしょうか。
現状では、医療者・研究者と、現場の専門職との間に「認識の乖離」があります。医師は基本的に疾病や障害のある乳児を診ますので、医学的な異常がない「正常範囲内」の乳児の変化を知る機会に乏しい可能性があるのではないかと考えています。
一方で、熟練した助産師などの専門職は、長年の経験から「今の赤ちゃんは緊張が強い」と気づくことができます。しかし、こうした「実感」は、しばしば「主観的な印象にすぎない」と医療現場からは軽視されてきました。今後はこの乖離を埋めていく必要があります。
――支援システムの構造的な課題も見えてきたそうですね。
乳児ケアの現場は圧倒的に女性が多く、非正規雇用や非常勤の職員に任されがちな現状があります。育成上の課題も深刻です。例えば、保健師による新生児健診を新人が担当した場合、ベテランが感じるような異変に気づきにくい。また、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士で乳児を診ることができる人も、日本全国でごく少数しかいません。
そして、医療、保健、保育といった多職種間で、乳児の発達を共通の言語で語り、情報を共有する仕組みがまだ非常に少ないことも、大きな課題だと言えるでしょう。
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【「身体の矯正」や「英才教育」の懸念】
