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ダボスでの「叱責」から始まった日米の火種、ベッセント米財務長官が日本に迫る経済政策の転換と市場に漂う緊迫の正体

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(写真:ブルームバーグ)
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日本での協議では、サプライチェーンの強靱(きょうじん)化やイラン戦争、為替市場などを議論するとみられる。

ハドソン研究所で日本部長を務めるケネス・ワインスタイン氏は、ベッセント氏の日本に関する知見は財務長官としては「前例がない」と指摘する。トランプ氏は、第1次政権時にワインスタイン氏を次期駐日大使に指名した。

ワインスタイン氏は、「日本に関する問題を扱う際は通常、日本の財務相の方が米財務長官よりも情報面で優位に立つが、ベッセント氏が議論の場にいると優位性は大きく崩れる」との見方を示した。

一定の猶予

スイスでの緊迫した日米財務相会談から数日後、ベッセント氏は異例の対応としてレートチェックを承認し、下落する円の下支えに協力した。通貨当局が参考となる為替レートの提示を為替ディーラーに求めるレートチェックは、介入の可能性を示唆する警告として機能する。

この対応は、投機筋をけん制し、実際の介入を回避することで、日本に一定の猶予を与える効果をもたらした。

元日銀為替課長で、10-11年の為替介入時に実務を担当した竹内淳氏は、米国の対応に驚きを隠さなかった。

現在、リコー経済社会研究所で所長を務める竹内氏は、「おそらくマーケットにいる誰も米国による円のレートチェックなんて聞いたことがないと思う。非常に大きな効果を発揮した」と指摘。「私のときは選択肢としても考えなかった」と語った。

ベッセント氏が日本を支えた側面もあるかもしれないが、日本が経済をどうのように運営するべきかという個人的な見解には、日銀が金融政策の正常化を進める中で円相場が適切な水準に落ち着くのを容認すべきだとの考えが含まれているようだ。 

ベッセント氏は昨年8月、日本はインフレ問題を抱えており、日銀は利上げが後手に回る「ビハインド・ザ・カーブ」に陥っている可能性があると指摘した。昨年10月に訪日した際は、日銀にインフレ抑制に取り組むための裁量の余地を与えるよう政府に呼び掛けた。

米国が日本の経済政策に対してこのような強い姿勢を取ったのは、1990年代に日本の対米貿易黒字の是正を目的に経済的な譲歩を引き出したクリントン政権以来となる。それ以前では、大幅な円高をもたらした1980年代半ばのプラザ合意がある。一部のアナリストは、これが日本のバブル経済を助長する一因となり、結果として長期にわたる低成長の引き金となったバブル崩壊を招いたとみている。

ベッセント氏の今週の訪日は、6月中旬の日銀金融政策決定会合での利上げ観測が高まる中で行われる。日本国債はダボスでの会談以降も下落が続き、10年物利回りは4月に1997年以来の高水準に達した。ベッセント氏は米10年物国債利回りを最も重要な市場の指標と位置づけており、日本発で同利回りが上昇すれば、トランプ政権の政策運営を難しくする可能性がある。

こうした事情が、1月の日米会談で交わされた激しいやり取りの背景にある。高市首相が積極的な財政政策を志向し、消費税減税を検討していることから、投資家の間では、より拡張的な財政政策がもたらし得る長期的な影響を政府は過小評価しており、インフレへの対応に消極的ではないかという懸念がくすぶり続けている。

片山氏は、日米会談後にダボスで行われたブルームバーグとのインタビューで、日本は依然として世界の投資家にとって「買い」の対象であると力説。経済成長に伴う税収の増加と不要な支出の削減により、政府は国債を追加発行することなく、主要な成長産業への投資拡大を推進できると述べた。

2月の衆院選で与党が歴史的な地滑り的勝利を収めたことも、政策運営を進める上で、より安定した基盤を確保したとの安心感を投資家に与えた。食料品の消費税率を一時的に引き下げるというコストの大きい措置についても進展は遅く、実施されるとしてもその時期はまだ決まっていない。

それでも、日本の国債利回りはじりじりと上昇を続けており、米国債に打撃を与える可能性は依然として残っている。ダボスでの会談以降、日本政府は為替市場に介入し、円安阻止に推定で最大10兆円超の資金を投じた。こうした介入が続き、その資金の調達手段として米国債の売却が頻繁に行われれば、米国債の利回りが上昇し、ベッセント氏の懸念はさらに強まりかねない。

同時に、日本国内での金利上昇に伴い、日本から米国債を含む海外資産への資金流入が鈍化する可能性もある。

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【「日本は経済体制の転換期にある」】

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