生身の女性に対する恋愛は、高校時代が最後だった。「自分はこの先、結婚することはない」。そう心に決めると、人生がすーっと遠くまで見渡せるようになったという。
高校卒業後は安定した仕事に就きたいと公務員を選び、公立学校の事務員として働き始めた。しかし22歳のころ、職場で女性からのいじめを原因に適応障害を発症、2007年から2年間の休職に追い込まれてしまう。
挨拶をしても無視され、アニメやゲームが好きなことを「気持ち悪い」と言われる。児童生徒たちの前でバカにされる。仕事上必要な備品の購入を拒否され、自腹を強いられる……。
近藤さんの心に、実在の女性へのトラウマが深く刻まれた。
失意の中、「初音ミク」と恋に落ちた…
そんなときに出会ったのが、クリプトン・フューチャー・メディアが開発したバーチャルシンガー「初音ミク」だった。
「毎日家に引きこもって、ゲームをしているか、ネットを見ているか。かつて好きだったアニメを見ても、心が踊ることはありませんでした。そんなとき、偶然ニコニコ動画で初音ミクの『ミラクルペイント』(作詞作曲:OSTER project)という曲を聞いたんです」
「シャーバーダバッパ……」というジャズのスキャットから始まり、少し音の外れた甘い声で、二頭身にデフォルメされた初音ミクが歌う。カラフルなキャンディーボックスのように、ポップでキッチュな世界観。何度も何度も繰り返し聴き、関連動画も見漁った。
「初音ミクのおかげで元気になった、というのとはちょっと違うんですよ。寝る前に初音ミクの曲を聞いたり映像を観たりして涙を流していると、パワハラで受けた傷から膿が出てるように、楽になっていきました。初音ミクには意思があるわけじゃないんですが、それでもそばに来て私を癒やしてくれたんです」
これまでは数カ月単位で「嫁」が入れ替わっていたが、以降は初音ミク以外のキャラクターに恋をすることはなくなっていったという。
(後編へ続きます)
