寿湯が支えているのは、高齢者だけではない。スマホを持ち込めない浴室は、若い世代にとってもかけがえのないリラックス空間になっている。仕事や人間関係に疲れた現代人が、湯船でなにもせずにぼんやりする。そうやって無心になれるのも、銭湯の魅力のひとつなのだろう。
1日700人でも「ギリギリ黒字」
家族が苦労を重ねてつなぎ、地域に欠かせない存在となった寿湯。その自覚があるからこそ、亮三さんは店を畳むという選択肢をもたない。しかし思いだけでは、経営は続かないのが現実だ。
寿湯の業績は明かされなかったが、売り上げの構成は入浴料が約8割、サウナが約2割、グッズ販売は5%に満たない。入浴料は大人(12歳以上)550円、中人(6歳以上12歳未満)200円、小人(6歳未満)100円。1日600〜700人の集客がありながら、経営実感を聞くと亮三さんは、「まあ、ギリギリですね」とだけ答えた。
物価統制令による入浴料の上限と、燃料費高騰の板挟み。その構造的な矛盾が、このひと言に凝縮されている。廃業ラッシュの業界でこの数字を保っていること自体が、家族で必死につないできた努力の証しだろう。
それでも、業界の廃業は止まらない。後継者不足で店を畳むケースが後を絶たず、苦渋の決断を見てきた。
「自分の子どもには継がせたくないっていう人、すごく多いですね」
東京都浴場組合では若者向けの「銭湯の担い手養成講座」も開催しているが、銭湯経営は朝から晩までやることが目白押し。新規参入は簡単ではないのが現実だ。最近は企業による参入も目立つが、状況によっては撤退してしまう可能性も否めない。
撤退できない家族経営だからこそ、亮三さんは「楽しそうに働く背中を見せていく」ことを選んだ。わが子が「継ぎたい」と自然に思えるような姿を、日々の現場で示し続けている。
最後に「銭湯が消えた街からは、なにが失われると思いますか」と聞いてみた。
「祭りのあとにお風呂に入るとか、そういったこともなくなって……。みんなコミュニケーションを取らなくなり、街の活気がなくなるでしょうね」
真っ直ぐな答えだった。
次ページが続きます:
【「清潔・きれいは基本」】
