安全対策として、国交省のガイドラインに沿って重機の周囲に無人区画を設け、人の立ち入りを禁止している。監視者が緊急停止装置を携行し、万が一の暴走にも対処できる体制だ。遠隔操作に特化した免許制度はまだ整っていないが、巴山建設では社内ルールとして有資格者のみが操作すると定めている。
2030年に向けた先行投資
巴山建設は重機を53台保有し、うち21台がICT建機だ。松村氏によると、ICT建機の保有台数は首都圏でもトップクラスだという。ドローン測量から3D設計データの作成、ICT施工まで一気通貫で内製化しており、遠隔操作はその延長線上にある。
とはいえ、遠隔施工が今すぐ採算に乗るわけではない。松村氏も「中長期的な先行投資だ」と認める。作業効率はまだ搭乗操作に及ばず、習熟にも時間がかかる。遠隔装置を搭載したバックホウはまだ1台で、今後はダンプトラックやクローラーダンプへの展開も見据えている。
それでも今動く理由がある。国交省は24年に「i-Construction 2.0」を打ち出し、建設現場のオートメーション化を掲げた。同年3月には「自動施工における安全ルールVer.1.0」も策定された。
OEDO Dynamicsの田中代表によると、30年以降は遠隔操作や自動施工に対応していなければ受注できない工事が出てくる見通しだという。免許の要件や無人施工エリアの基準を定めるガイドラインも、国交省・厚労省・総務省の三者間で検討が進んでいる。
松村氏は「いきなり災害復旧に行けと言われても対応できない。普段の現場で習熟しておくことが、いざという時の備えになる」と話す。大掛かりなコックピット型の設備ではなく、モニター3台とジョイスティックだけの簡素な構成を選んだのも、日常的に使い続けるためだ。
もっとも、巴山建設の事例がそのまま他の中小建設会社に当てはまるわけではない。ICT建機を21台も保有し、ドローン測量から3D設計まで内製化してきた蓄積があってこそ、遠隔操作という次の一手に踏み出せた。この前提条件を整えるのが、多くの中小にとっては最初のハードルになる。
それでも、後付け装置とスターリンクという低コストの組み合わせが登場したことで、参入のハードルは確実に下がっている。多摩の建設会社の一歩は、業界全体の地図を少しずつ変えていくかもしれない。
