さらに日本には、「社会によってつくられた『あるべき』像が強い」とも染矢理事長は指摘する。当連載で中絶について取材した大橋由香子氏も話していたが、思いがけない妊娠が起こり得ること、という認識が薄く、近年は「少子化だから」子どもをつくるべきという圧も強いという。
「異性愛者もいれば、性的マイノリティーの人たちもいます。自分が性行為をするかしないかにかかわらず、性についての知識は生きていくうえで必要です。自分の身体とうまく付き合っていくこと、また、他の人とのかかわり方の理解を深めることが、人生の舵取りにつながるのではないでしょうか」(染矢理事長)
「大事なのは自己決定」
性行為も、その先にある「産む」「産まない」も、「大事なのは自己決定。私たちには主体性を持つために必要な知識を学ぶ権利があるし、困ったときは安心して相談できることも権利です。社会規範を批判的に見ることも大事。
例えば、『家族を持つことが歴史の中でどんなふうに扱われてきたのか』という視点を持つことも、考えるヒントになると思います」と話す染矢理事長。家族観の歴史は、慶應大学の阪井裕一郎准教授に若者事情を聞いた記事で紹介した。
きちんと学べば、性は人生を豊かにしてくれること、性的自認や性的嗜好も多様で、妊娠・出産は必須でないことがわかる。家族のあり方も、過去にさかのぼる、あるいは世界に視野を広げれば実に多様だ。現在の日本でも、ひとくくりにはできないことが、家族や恋愛をテーマにしたフィクション、ノンフィクションの作品でたくさん紹介されている。
今年は、幼稚園から中学校までの学習指導要領が10年に一度の改訂の年で、高校は来年。染矢理事長は「はどめ規定の壁はすごく厚い。『発達段階に応じて』という言葉で逃げられて、はどめ規定の科学的な根拠や正当性が何かは語られず見直さない」という問題を語る。
日本では、議論や話し合いによる言語化を避け、推測で行動する傾向が強い。そのためか、「べき」を押しつけがち。しかし、まず自分がどうしたいのかを考えること、パートナーがいるならその人ときちんと向き合うことが、産むか産まないかを考える出発点ではないだろうか。
