そんな中、教師や「第3の大人」が1人ひとりと面談し、対話を繰り返す中で変化が起きていったという。例えば「進路のことはよくわからない」と言って諦める生徒に、「じゃあ、今の高校(クラーク)はどんな判断基準で選んだの?」と問うと、「甲子園に行ける可能性」「練習設備の充実度」「監督との相性」など、かつて自分が悩み抜いて決断した際の「自分独特の判断基準」をすらすらと語り始めたのだ。
「捕手として1球1球の配球を決めるように、君たちは部活の中で日常的に高度な意思決定をしている。進路選択もそれと同じだよ」。そう促された生徒たちは、みるみるコツをつかんでいった。
表に書いて、大人と対話し、また書き直す。この反復作業は、単に情報を整理するだけではない。他人の意見や社会の常識という「ノイズ」を取り除き、自分の内なる直感や違和感を「論理」へと昇華させていくプロセスなのだと私は思う。
「選択体験記」の置き土産
その集大成ともいえる出来事があった。「ミライの選択」を2年間にわたって受けてきた高3生たちが、卒業直前に「合格体験記」ならぬ「選択体験記」を残していってくれたのだ。
初期の漠然とした迷いから始まり、対話と修正を重ねる中で選択がどのように変わっていったのか。最終的に自分だけの哲学をいかに磨き上げ、納得のいく決断を下したのか……。大人の期待に忖度せず、人生の舵を自ら取るために生徒たちがもがいた「悪戦苦闘の軌跡」が、熱を帯びた言葉で綴られていた。
選択体験記を読んだ先生たちも、「進路を最後まで悩んでいた生徒たちが、自分の葛藤をこれほど言語にできるようになったことに驚いた」(クラーク国際教員の長澤ひかる氏)と振り返った。
とはいえ、生徒が最初から自力で考えを深めることには限界がある。そこで、クラーク国際や立命館慶祥には、「第3の大人」である北海道大学の菊田隆一郎氏が年間150日以上訪問し、生徒の描いた「1枚の表」を使って、日々面談を行う。
菊田氏が面談を行うのは、スクールカウンセラーがいるような、閉ざされた面談室ではない。
次ページが続きます:
【渡り廊下の開かれた会話から始まる】
