本当は進路に迷っていても、それを上手く言葉にすることが、子どもたちには難しい。家庭や学校では、子どもの「迷い」よりも、親の期待や教師の評価の方が、大きな力を持つからだ。
国立青少年教育振興機構の国際比較調査によれば、日本の高校生は「いまの生活には満足している」生徒の割合が高い一方で、「自分の将来に不安を感じている」生徒は約8割にのぼる。これは、アメリカや中国、韓国と比べて突出して高い。現在の大学入試はとてつもなく複雑化しており、自分の迷いに蓋をすることで、「とりあえず」「偏差値で」「親の勧めで」進路を決めてしまう生徒も多いのが実情だ。
しかし、そんな中でも綾音さんは、第3の大人と一緒に1枚の表を使って語ることで、自分の迷いをまっすぐ言葉にすることができた。現場で生徒と向き合う先生たちも、「『進路選択の教室』を通じて、生徒が自分の迷いを視覚的に整理し、率直な言葉で表現することで、生徒にとって進路選択が『与えられるもの』から『自ら選び取るもの』へと変化していく、確かな手応えがありました」(立命館慶祥教員の高橋亮輔氏)と実感している。
「世界に通用する18歳」のために
立命館慶祥の山口太一副校長は、この取り組みを「学校共通の振り返りのツール」として活用する未来を想像する。
「生徒が中学・高校の間で定期的に進路選択表を描けば、自分の選択肢や価値観が、書くたびに変化することに気づくと思います。特に慶祥は、特色ある海外研修を行ったり、北海道大学の菊田さんのように、親でも教員でもない大人と生徒が関ったりする機会も多い。そうした機会を経験した前と後で、自分の考えがどう深まったのかを整理するときに、第3の大人と1枚の表がきっと活躍します。慶祥の学びは多様だからこそ、『進路選択の教室』によって、その強みを、生徒の深い振り返りに接続させ、納得した進路選択へと展開できる可能性を感じます」
同校は、「世界に通用する18歳」の育成を掲げ、立命館大学を中心に、難関国公立大学や医学部、海外大学にも多数の合格者を輩出する進学校だ。しかし、社会の価値観が多様で変化する現代では、ただ学力が高いだけでは世界に通用するとは限らない。
中学・高校での多様な学びの中で、自らの価値観を問い直し、正解のない中で納得のいく選択を導き出す「進路選択の教室」は、まさに「世界に通用する18歳」というビジョンに合致するものでもある。
