とはいえ、細部は通知や通達でどう固まるか、わからない。「過去の含み益が自動的に分離課税になると思わないほうがいい」と八木橋氏は顧客にも念を押している。別の金融商品では、制度移行のタイミングで「みなし譲渡」として損益を確定させた前例もあったという。
制度設計の中枢にいる井林氏自身も、断定を避けた。「私も暗号資産を持っているから、気になっている。譲渡所得への課税なので、売却が発生したタイミングで計算するのではないか、とは思うが、(国税庁に)聞いても返事が返ってこない」。希望的観測だ、と自ら付け加えた。
金商法入りで変わるいくつもの要件
業界が数年来求めてきた改正が、なぜいま実現したのか。
暗号資産はこれまで、資金決済法の枠組みで規制されてきた。プリペイドカードや電子マネーを扱う法律である。売買差益が出る実態はあっても、制度上は「決済手段」という立て付けだった。
これが今回の改正で、金融商品取引法(金商法)の枠内に移る。株式や投資信託と同じ「金融商品」として扱うという、位置づけの転換だ。「金商法の世界に行く」ことが分離課税導入の前提である。
ただし金商法の対象に入れば、規制も金融商品並みになる。インサイダー取引の禁止、情報開示、投資家保護の体制整備……。交換業者にとっては負担が重くなる方向の変化で、業界内には「別の法律で対応してほしい」との声もあり、議員個人への陳情もあったという。
「『金商法に行きます』といっても、『そうじゃない』という人が必ず出てくる。そのさざ波をきちんとコントロールしきったところが、今回のミソだ」。井林氏は合意形成の勘所をそう語る。改正が一気に進んだ理由は、業界団体として意思を一本化できたことにある。
政治側にも数字があった。金融庁の資料によれば、国内の暗号資産交換業者の口座開設数は25年10月時点で1300万を超え、保有者の約7割が年収700万円未満という若年層中心の構図になっている。「若い世代に広まっているものを、安定した資産形成のツールにしたい」と井林氏は語る。投資家保護と資産形成の文脈が、慎重派の態度を変えた格好だ。
井林氏はイベントの最後にこう語った。「新しい技術だからトライしようという世界から、金融商品になった。暗号資産を通じて実体経済がどう良くなるのか。そこをぜひ示してほしい」。
DeFi、ステーブルコイン、送金のたびに発生するガス代の損益計算——。制度が触れていない論点はまだ数多い。特定暗号資産の具体的な銘柄範囲も、含み益への適用可否も、すべてこれから。答えが出るのは、通知や通達が整い始めてからだ。
