周囲は若いクリエーター志望の生徒ばかり。パソコン経験の乏しい山本さんは思うようについていけなかった。それでも必死に食らいつく様子を見ていた講師から、「ブログを書いてみたらどうか」とアドバイスを受けた。
「後で考えたら、それが人生の分かれ道でしたね」
ブログに夢中になり「どんなタイトルならクリックされるのか」を考えるうち、「綺麗な画像やインパクトがあると読者の反応がいい」という確信を得た。「それならもっと良い写真を撮りたい」と思った山本さんは、50歳からカメラスクールに通い始める。
スクールを修了した後、当時10万円ほどだったキヤノンの入門機「Kissシリーズ」のカメラを購入。食べ物を中心に撮影するフードブログを始めた。「食べ物は、年齢や性別を問わず、誰もが関心を持つテーマ」と考えたからだ。
レストランに出かけては一眼レフで料理を撮影し、ブログに投稿する日々が続いた。山本さんは、写真に一つのこだわりがあった。
「寄りで、ちょっと“エロめ”に撮るんです。シズル感っていうんですかね。甘そうとか、熱そうとか、焦げ感とか。そしたら感情が伝わるから」
料理にぐっと近づき、質感や温度感を切り取る。山本さんの写真は、周囲からも評判がよかった。
そこから数年がたち、55歳のとき、地元のタクシー会社から広告撮影を依頼された。「普通のおばさんなのに大丈夫か」と不安になった山本さんは、カメラスクールの先生に相談。「本格的な機材が必要だ」と言われ、プロ仕様のキヤノンMark II を購入することに。当時60万円のカメラ。しかも、夫に内緒でだ。
「こんな高いの買ったって言ったら、絶対ネガティブな言葉しか返ってこないと思ったんですよ」
同じ家に住んでいるのに、見つからなかったのかと尋ねると、「押し入れにしまい、使う時だけコソコソと出して、終わったらまた押し入れにしまうんです」と笑った。
背景にあった長年抱えてきた事情
こっそり踏み出したカメラマンへの第一歩。だがその背景には、山本さんが長年抱えてきた事情があった。
次ページが続きます:
【2014年、夫が肺がんと診断】
