IT大手インフォシスの共同創業者ナラヤナ・ムルティ氏は、「インドを成長させるためには、若者は週70時間働くべきだ」と提言し、大論争を巻き起こした。さらにL&T(ラーセン・アンド・トゥブロ)の会長に至っては「週90時間」を推奨している。
ワークライフバランスが叫ばれる先進国を尻目に、インドの20代、30代の若手エリート層は「今、自分が働けば、自分も国も豊かになる」と一点の曇りもなく信じているのだ。アメリカのシリコンバレーから帰還した超優秀なエンジニアたちや、最難関のインド工科大学(IITs)出身の若者たちが、次々とスタートアップを立ち上げている。
2024年の新規上場件数でインドが世界トップに立ったのは、偶然ではない。彼らはスマホを武器にした「21世紀の24時間戦士」なのだ。
「マハラジャ」から「超高級クラブ」へ
1980年代、若者がジュリアナ東京やマハラジャに集い、ボディコン姿で踊り明かしたあの夜を覚えているだろうか。今のムンバイのBKCやBandraは、Bollywoodと金融が混ざり合う熱気があり、週末深夜のDragonfly(巨大クラブ)は、当時の六本木や芝浦を彷彿させる。
インドの富裕層や新興エリートはロレックスをはめ、BMWやテスラに憧れ、その日常をInstagramにアップする。こうした一部富裕層の「点の現象」は、徐々に新興勢力へと広がりつつある。
「稼いで、見せびらかして、何が悪い!」このストレートな上昇志向こそが、あのバブル期を支えた熱量に通じるものがある。
しかし、この光景をもって「インドはバブルだ」と断じるのは早計だろう。
1980年代の日本のバブルは、不動産や株価といった資産価格の上昇が主導した、いわば「金融主導の膨張」だった。一方で、現在のインドで起きているのは、それとは構造的に異なる。
第一に、人口増加と都市化を背景に、消費市場そのものが拡大している点だ。若年層を中心に所得が上昇し、これまで消費に参加してこなかった層が、新たに市場に流入している。
第二に、ITやスタートアップを中心とした新興産業の成長により、若くして資産を形成する層が生まれている。これは、2010年代のシリコンバレーに見られた「資本主導の熱狂」に近い。
そして第三に、こうした新興層に加え、リライアンスやビルラグループのように長年にわたり資産を蓄積してきた財閥系の富裕層が同時に存在している点である。
つまり、現在のインドの熱気は、「拡大する中間層」「新興エリート」「伝統的富裕層」という異なる三つの層が同時に動くことで生まれた、多層的な現象なのである。
さらに、当時の日本と決定的に違う点がある。それは「デジタル」と「グローバル」の存在だ。
バブル世代の日本人は雑誌『Hanako』や『Hot-Dog PRESS』を読み込み、デートの「マニュアル」を頭に叩き込んだ。だが今のインド人が読み漁っているのはSNS。トレンドの速度はバブル時の日本の10倍にも感じる。さらに、都市部の若者は英語ができるから最初からグローバルなトレンドにアクセスできる。
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