なぜ「Nemawashi」は英語になったのか? 日本特有の「根回し」が、世界でも"不可欠の交渉術"と認められた理由

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

だからこそ、会議前に非公式に意見を聞き、異論をあらかじめ調整しておく必要があるのです。ちなみに「メンツ」は日本固有のものではなく、アメリカやその他の国にもメンツを大切にする文化があります。特に中国社会では日本社会以上にメンツを守ることが重視されています(Goffman, 1955; Hu, 1944)。

また、根回しは「上下関係」や「年功序列」といった社内の序列への配慮も含みます。日本の企業文化では、序列への配慮が強く求められます。年次や役職が上の人を飛ばして決定を進めることは、重大な礼儀違反とみなされることがあります。そのため、関係者の中でも「誰に先に話すか」「どのタイミングで伝えるか」といった細かな順番の工夫が必要になります。

さらに、根回しは「不確実性を嫌う」という日本文化の反映でもあります。オランダの心理学者ヘールト・ホフステードが提唱した文化次元の理論には「不確実性回避傾向」という文化指標があります(Hofstede, 1984; 2001)。

「根回し」と「バックステージ・ネゴシエーション」

これは将来や変化、曖昧さ、不確実な状況に対して人々がどの程度ストレスや不安を感じるかを表すもので、世界の中で特にこの傾向が強いのが日本の特徴です。

社内政治の科学 経営学の研究成果
『社内政治の科学 経営学の研究成果』(日経BP 日本経済新聞出版)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

根回しは、会議や意思決定の場を「何が起こるかわからない場」にしないよう、事前に情報を共有しておくという意味があります。不安を感じる人ほど、提案に対して慎重になったり、反対に回ったりする可能性が高くなります。

一方のバックステージ・ネゴシエーションは、より交渉としての色合いが強いものです。日本の根回しに比べて、明確な利害対立を前提とした利害調整や、戦略的な譲歩、そして合意形成が強く意識されています。

根回しの中には、バックステージ・ネゴシエーションと同じものもありますが、明確な利害調整や戦略的な譲歩をともなわない場合もあります。そのため、欧米人にとって根回しは「なぜ交渉もないのに、事前に訪問する必要があるのか」「あの人は何のために会議前にわざわざやって来たのか」といった戸惑いを生むこともあります。

このように「根回し」と「バックステージ・ネゴシエーション」は似て非なるものです。「根回し」という言葉は日本独自のものです。しかし、根回しに近い行動は、海外でも重要な意味を持つことを理解しておく必要があります(下図)。

(『社内政治の科学 経営学の研究成果』より)
木村 琢磨 昭和女子大学教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

きむら たくま / Takuma Kimura

博士(経済学、東京大学)。スタートアップでの勤務や組織・人事コンサルティング実務を経て、2018年より法政大学教授。2025年より昭和女子大学教授。 主に経営学の分野で国際的に影響力のある学術誌に多数の論文を発表。2015年に International Journal of Management Reviews に掲載された論文は、社内政治研究における世界トップ10論文に選出。現在も国際的なジャーナルで研究成果の発信を継続中。 専門は組織行動論と組織アナリティクス。企業の組織改革や人材戦略に関するコンサルティングや研修を行い、研究知見を企業の現場に応用する活動に取り組んでいる。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事