なぜ「Nemawashi」は英語になったのか? 日本特有の「根回し」が、世界でも"不可欠の交渉術"と認められた理由

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さらに重要なことは、実は海外にも根回しに似た行動があり、ビジネスの中では重要な役割を果たしているということです。それがバックステージ・ネゴシエーション(backstage negotiation)と呼ばれる行動です。

この言葉は、社会学者アーヴィング・ゴッフマンの「舞台/舞台裏(frontstage/backstage)」という概念化に由来します(Goffman, 1959)。

表の舞台では、役者は自分の役割を演じ、聴衆に向かってパフォーマンスを見せます。一方、舞台裏では、衣装を整える、段取りを確認する、本音を語り合うといった、より本質的で自由なやりとりが行われます。

ビジネスにおける「バックステージ・ネゴシエーション」も同じような意味を持ちます。たとえば労使交渉のような正式な場では、それぞれが自身の立場を守りながら交渉に臨む必要があります。

しかし実際には、その前後に「舞台裏」で非公式なやりとりが行われることが多いのです。そこでは、建前を超えた本音のやりとりが交わされます。会議では話しづらい本音や条件などが、そうした舞台裏で共有されることもあります。

この「舞台裏」の交渉は、欧米のビジネス文化でも重要なプロセスとして認識されています。交渉に臨む前に相手の懸念や立場を理解しておくこと、会議の席で相手を驚かせないこと、事前に反応を探っておくこと――これらはまさに、根回しと共通する考え方です。

さらに、ビジネスの現場では、移動中の車内やランチタイム中の雑談、さりげないメールでの共有など、非公式な接点が重要な意味を持つことがあります(Koch & Denner, 2022)。

こうした場での会話が、会議での発言を左右したり、提案の通りやすさに影響を与えたりするのです。特に、利害が異なる複数の部署や関係者が関わるようなプロジェクトでは、事前の調整や感触の確認がとても重要になります。

「根回し」にぴったり当てはまる英単語はありません。しかし、同じような行動は海外でも昔から行われ、今も必要とされているのです。

海外と日本の根回しの違い

ネマワシに似たバックステージ・ネゴシエーションがあるにもかかわらず、「ネマワシ」という日本語がそのまま英語として使われるのはなぜでしょうか?

それは、根回しが日本特有の社会的文脈や価値観と深く結びついており、翻訳ではとらえきれない側面があるからです。

たとえば、根回しには「メンツを保つ」という目的があります。相手の立場や体面を傷つけないようにすることです。日本では、公の場で意見に異を唱えることは、相手のメンツをつぶす行為と受け取られることがあります。

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