ところが、しばらくしてその男性が突然涙を流し始めた。
体調が悪いのではないかと心配になり、柴田さんの妻・輝子さんが声をかけた。すると男性は、ゆっくりとこう話した。
「実は私、妙高高原の出身なんです」
幼い頃、両親に連れられてよく食べていたラーメンがあった。それが柴田さんの修業先でもある「ミサ」のラーメンだったという。ラーメンを食べた瞬間、亡くなった両親と一緒に食べた記憶が一気に蘇ってきたのだ。
ただ、ここで1つ不思議なことがあった。その男性は、柴田さんが「ミサ」出身だということを知らなかった。つまり先入観なしに食べていたにもかかわらず、心の奥に眠っていた記憶が呼び起こされたのだ。
「うちのラーメンは、もうミサの味とはだいぶ違うんです」と柴田さんは言う。それでも、香りや湯気、味わいが五感を刺激し、昔の思い出を呼び覚ましたのかもしれない。
食べ終えた男性は、店を出るときに静かに言った。
「本当にありがとうございました。これからも頑張ってね」
その言葉を聞いたとき、妻・輝子さんも涙を流した。ラーメンが人生の記憶に寄り添う料理であることを、改めて実感した瞬間だった。
カウンターでは今日も人生に残る瞬間が生まれる
ラーメンは、数分で食べ終わる料理だ。だが、その短い時間の中で、人生に残る瞬間が生まれることがある。
迷いを救ってくれる言葉。
思わず叫ぶほどの美味しさ。
親子で受け継がれる思い出。
亡き家族を思い出して流れる涙。
ネットニュースにはなりにくいが、ラーメン店のカウンターでは、そんな物語が毎日のように生まれている。どんぶり一杯を通して交わされる言葉が、今日もまた誰かの背中を押している。
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