職を失った男の常軌を逸した行動…韓国の怪作映画『しあわせな選択』、世界を魅了する「狂気」の正体

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ついに彼の心には「ライバルがいなくなれば仕事は手に入る。かつてのような家族の幸福な生活を再建できる」という思考が生まれ、破滅への道に足を踏み入れる。

幸せの絶頂から突き落とされた主人公は、何かに取り憑かれたかのように常軌を逸した行動に走る。現実的に生活を立て直そうとする妻と、両親に翻弄される子どもたちも、彼の狂気に巻き込まれていく。

そんな家族の行く末に待ち受けている結末は、リアルなのかファンタジーなのか。どちらにも感じられる妙に、鬼才パク・チャヌクの手腕がにじんでいる。

正視に耐えない描写がてんこ盛り

本作が描くのは、現代社会に生きるビジネスマンの誰もが直面し得る“突然の解雇”と、それによる家族の関係と生活の変化だ。

何とか仕事=人生を取り戻そうともがき苦しみ、いつしか自然に闇落ちしていく主人公の姿を、その狂気の行動をデフォルメして映すことでエンターテインメントにしている。

そこには、韓国映画らしい、生々しくグロい正視に耐えないような描写がてんこ盛り。血もゲロもエロもリアルすぎるから、その映像のインパクトが物語を鋭利な刃物にして、観客の感情を切り裂いていく。

しあわせな選択
主人公の殺害のターゲットにされる同業者たち(写真:『しあわせな選択』(C)2025 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM ALL RIGHTS RESERVED)

パク・チャヌクのファンは、彼の真骨頂として捉えるに違いない。同時にそれは、一般層向けではない観客を選ぶ映画にもなる。ただ、その強烈な描写の裏には、急激に変わっていく社会を生きる市井の人々の姿がある。

だから、客観視して楽しむだけではない、彼の家族への共感が気づかぬうちに生じている。そして、恐ろしくも滑稽な常軌を逸した主人公の姿と、彼の行動の向かう先から、一瞬たりとも目が離せなくなる。そんなストーリーの力が宿っている。

とくに主人公の妻の振る舞いに、考えさせられることがある。

職を失った夫は、再就職が叶わず、次第に行動が怪しくなっていく。彼女のような立場に置かれたときに、自分ならどうするか。

彼女の選択と行動には、建前的なものが一切ない。これがリアルなのだろう。そこには、善悪の観念よりも、家族という共同体の力学のほうが強く働くことが示されている。

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