成長投資の舵を取り、挑戦を続ける組織へ導く 日立製作所CFOが語る、変革への次なる一手

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左から、デロイトトーマツグループ 長川知太郎氏、日立製作所 加藤知巳氏、デロイトトーマツグループ 近藤泰彦氏
日本を代表する企業のCFOに企業価値向上のための経営の要諦と、その中でCFOが果たしている役割をインタビューするシリーズ「The Power of CFO」。第4回は、データとテクノロジーを組み合わせ、社会イノベーション事業をグローバルに推進する日立製作所を取り上げる。
 
同社で経営の根幹を担うのが、CFO 兼 財務統括本部長 兼 CRMO(Chief Risk Management Officer)の加藤知巳氏だ。日本企業が勝ち残っていくための戦略が求められる中、企業価値の創造に向けたCFOの役割や持つべき指針とは。デロイト トーマツ グループ CFOプログラムの近藤泰彦氏、同社コンサルテイティブ ビジネスリーダーの長川知太郎氏との鼎談でひもといた。

CFOがリスクマネジメントも管掌し、経営判断の質を高める

近藤 CFOの役割は多様化し、特に戦略的な役割にフォーカスをする傾向が高まっています。初めに、日立製作所のCFOとして管掌されている領域をお聞かせください。

加藤 私が管掌している領域は経理財務、IR、投融資の3つです。投融資を管掌しているのは、私が2025年4月からCRMOを兼務していることと大きく関係しています。CFOは、業績の見通しや損益、キャッシュフローを理解していますので、どの程度のリスクが取れる財務状況にあるのかを定量的に把握しています。

一方、CRMOとしては非財務領域におけるリスクも見ます。双方が見るべき視点を掛け合わせることで財務・非財務のバランスが取れた経営判断ができ、兼務することで相乗効果が生まれていると実感しています。

現在は、当社のCFOとCRMOは同列の役職ですが、2026年度から組織編成を変更し、CRMOをCFOの管掌範囲に組み入れる予定です。両機能を一体でマネジメントすることの意義は大きいと思っています。

日立製作所 代表執行役 執行役専務 CFO 兼 CRMO(取材当時) 加藤 知巳 氏のインタビューの様子
日立製作所 代表執行役 執行役専務 CFO 兼 財務統括本部長 兼 CRMO
加藤 知巳

近藤 CFOとCRMOを兼務され、管掌範囲は非常に幅広いと思料いたします。これらの役割を担ううえで、どのような経験が生かされていますか。ご経歴とともにお聞かせください。

加藤 1986年に日立製作所に入社以降、一貫して財務関係に携わってきています。現在の広い範囲を掌握するうえで、多種多様な事業をさまざまな場所で経験したことが、たいへん役に立っています。

まず、コンピューターのサーバーの開発・製造を担う工場のIT部門に配属され、のちに販売会社やビジネスユニットなども経験しました。30代前半でアメリカの日立データシステムズ(現・日立ヴァンタラ)へ出向し、中国での勤務、電力・エネルギー部門、本社でグループ財務戦略本部長などを経て、現在に至ります。

特に役立っていると感じるのは、アメリカでの経験です。日立が買収した現地の企業で、当時3000名ほどいた従業員のうち、日本からの出向者は10名弱でした。明らかに現地従業員との距離を感じましたが、私は昔から「自分の人生は自分で決める」という考え方を大切にしており、当時も与えられた機会を無駄にしないために、立場上、日本側とも連携しながら、現地の周囲のメンバーと向き合うことに力を注いで仕事をしていました。

すると徐々に周囲から信頼されるようになり、最終的に当時の現地CFOと共に予算や中期計画を策定するまでになりました。身近な世界は自分の行動で変えられるということを体感できましたし、当時から戦略的だったアメリカのCFOの仕事を間近で見られたことは、非常に貴重な経験でした。

長川 アメリカでは早くから、CFOが経営戦略に深く関与していたと思います。会計や税務、財務管理だけの役割ではないCFOの姿に触れたことや、貪欲に学ぼうとする姿勢が、新たなCFOのあり方を切り拓く加藤さんの原点だと感じました。その後、経営の中枢に入る中で、具体的にどのようなプロセスに着目されてきたのでしょうか。

加藤 私が着目したのはキャッシュフローです。とりわけ、2014年に社内カンパニーの1つである電力システム社のCFOとなったときの経験が生きています。

当時は火力発電事業の業績が振るわず、P/L(損益計算書)の改善に取り組んだものの、思い描いたような結果には結び付きませんでした。そこで、少しでも状況を変えられないかと考え、キャッシュに着目しました。営業部門と共にキャッシュ黒字化を目標に取り組んだ結果、大きく改善でき、キャッシュフロー経営の重要性を実感しました。

ただ、このときはP/Lやキャッシュフローの改善といった数字ばかりに注力するあまり、業績を生み出す土台づくりができませんでした。特に、CFO組織の強化とIT環境の整備ができなかったため、本社に戻ってからはこの2つにこだわって取り組んでいます。

デロイト トーマツ グループ CFOプログラム カントリーリーダー 近藤 泰彦 氏のインタビューの様子
デロイト トーマツ グループ
CFOプログラム リーダー

近藤 泰彦

全体最適を促し、諫言(かんげん)できる組織をつくる

近藤 現在、「企業価値」への注目はかつてなく高まっています。この現状において、CFOの役割についてどうお考えでしょうか。

加藤 CFOの最大のステークホルダーは投資家です。特に当社は、社会インフラ領域に取り組み、長いビジネスサイクルを回す中で投資家の期待に応えなくてはいけません。

具体的に企業価値を高めるには、売り上げ拡大と営業利益率の向上、そして着実にキャッシュを創出するというサイクルを回し続けることが不可欠です。さらに、投資家が重視する資本効率を高めるため、当社ではROIC(投下資本利益率)を指標として採用しています。有利子負債も経営資源と位置づけることで、WACC(加重平均資本コスト)を上回るリターンが創出できているか明確に評価することが可能です。

また、社内では、自部門の事業の成果最大化に集中しがちで、結果として部分最適に陥ることがあります。それを全社視点で資源配分や優先順位を調整し、全体最適へと整えることがCFOの役割として肝要です。

一方で、実際に企業価値を創造しているのは一人ひとりの従業員であることも忘れてはなりません。意欲を引き出し、働きやすい環境を整えることを考えるのもCFOの役割です。人事部門をサポートし、人財育成を含むさまざまな施策を展開するための財源確保に取り組んでいます。

その1つが、2026年度から刷新する株式報酬制度です。企業価値の向上をより自分事として意識できるように、対象を役員のみからグローバルの幹部社員へ拡大します。併せて、国内だけに限定していた従業員持株制度もグローバルへと拡充を進めています。

デロイト トーマツ グループ コンサルテイティブ ビジネスリーダー 長川 知太郎 氏のインタビューの様子
デロイト トーマツ グループ
コンサルテイティブ ビジネスリーダー

長川 知太郎

長川 そうしたCFOとしての役割を果たすうえで、どのような視点や姿勢を重視されているのでしょうか。

加藤 大きく3つあります。1つ目は「信頼を営業する」ことです。投資家に向け、直近の正確かつ合理的な情報を開示するとともに、長期の成長ストーリーは、判断材料となるように前提条件を丁寧に伝えることが大事だと思っています。

2つ目は、CEOのイエスマンとならないことです。CEOが最終的な意思決定を下すためには、大切な情報や観点が抜け漏れなくそろっていなければなりません。時にはCEOが聞きたくないだろうと思われる情報も提示する必要があります。

CEOとは信頼関係を築いたうえで、言うべきことは躊躇せずに言う姿勢が重要だと考えています。ですから、私が理想としているのは、自らの命をかけて諫言を行い、中国・唐朝の繁栄の基礎を築いたとされる、皇帝・太宗の諫臣である魏徴(ぎちょう)のような存在です。

3つ目は、CFO組織の強化です。CFO一人ですべてカバーはできませんので、チームとしての力を高めることが重要です。そのため、先ほどの魏徴に倣い、意図的にチームメンバーには耳の痛い指摘をしてくれる人財を加えています。上司に諫言できる風通しの良い組織にすることが大切だと考えています。

CFOがリスクを取る姿勢を見せ、成長投資をリードする

近藤 CFOとして今後の成長に向けた次の一手をどのように描いているのでしょうか。

加藤 2020年代は激動の時代となっています。前例のないことが次々に起こり、経営環境の先行きは非常に不透明です。しかし、この状況下にあっても企業価値を高め続けていくのがCFOの使命であると感じています。

そのためにまず必要なのはリスクマネジメントです。新技術やAIの台頭、人手不足、サプライチェーン問題など、さまざまなリスクの兆候をできるだけ早くつかみ、対応するためには、ミクロの分析とマクロの視点を持ち、ロジックだけでなく創造性も働かせることが求められます。

また、成長投資への意識も一段と強めています。これまでは投資を抑える側に回ることが多く、結果的に国内事業の成長を十分に引き出せなかったという反省があります。一方、2020年に買収・設立した日立エナジーというスイスに本社を置くパワーグリッドの会社は、コストの高いアメリカやヨーロッパでも積極的に工場を建設し、成長機会を着実に捉えることができています。

CFOには、こうしたリスクを取る姿勢が成長の実現に不可欠だと改めて実感しています。全社を俯瞰してリスクの許容度を見極め、確保できる投資枠を明確にしたうえで、最も成長につながる投資先の検討を各事業部門に促すことができるのはCFOだけです。当然100%成功する保証はありませんが、CEOに合理的な判断材料を示し、リスクテイクを支えるのがCFOの役割だと思っています。

まだ実現には至っていませんが、リスクテイクしなかったことによる機会損失を可視化し、リスクを取る姿勢を社内のリーダー層と共有していきたいと考えています。

日立製作所 加藤知巳氏の鼎談の様子

成長マインド醸成に向けた組織の変革

長川 お話を伺い、加藤さんはCFOの役割に対するパラダイムシフトを起こしていると感じました。一般的には、事業部門からの投資要請に対し、短期成長へのフォーカスを求める場合が大半です。

しかし日立製作所は、予算編成の段階からCFOが確保可能な投資枠を明確にし、事業部門に今後の成長が期待できる領域の提示を促す形で主導されています。事業部門としても新鮮だったと思いますが、反応はいかがでしたか。

加藤 CFOが投資の拡大を呼びかけることについては確かに驚かれますが、無条件に投資を促しているわけではありません。各事業部門と成長投資についての議論を重ねながら、案件内容とリーダーの資質の適合性をつねに見極めています。現場との綿密な対話を通じて成長機会を探り、意思決定の判断材料をそろえている形です。

近藤 CFOはバリュークリエーターとして成長を牽引していくことが必要になると考えており、まさに、これからのCFOおよびCFO組織に求められる役割だと感じます。先ほど、CFO組織の強化に取り組んでいるとおっしゃっていましたが、強化のために取り組んでいることを具体的にお聞かせください。

加藤 まず重視しているのは、マインドセットの変革です。CFO組織は保守的な傾向があり、特に日本はその色合いが強いので、成長志向のマインドセットへ変革するためさまざまな取り組みを進めています。

例えば、スイスを拠点としている日立エナジーのDeputy CFOに、コーポレートの財務部門を管掌する役割を兼務させ、財務部門の抜本的な変革を推進するプロジェクトを任せています。ツールやシステムなど仕事のやり方にとどまらず、人財や組織のあり方なども含め、思い切ってグローバルな視点に振り切ることで組織に刺激を与え、マインドセットを変える契機にしたいというのが狙いです。

それと並行して、IT基盤の整備を進めています。生成AIやAIエージェントの導入を進める中で、これまで各事業部門が使ってきたシステムを共通化しつつ、AIが容易に学習できるようなデータを整える必要があります。組織変更にも柔軟に対応できるERP(統合業務システム)の仕様を定めて社内展開するとともに、業績管理システムの統合プロジェクトも進めています。

加えて、全体最適のさらなる深化にも取り組んでいます。当社はコングロマリット企業であり、すべての業務の一元管理は容易ではありませんが、全体最適を追求することで大きなインパクトを生み出せます。

例えば、3年前に刷新したトレジャリー・マネジメント・システム(資金オペレーションを効率化・高度化するシステム)が大きな成果を上げています。現在は、さらなる口座の可視化などを進めており、これにより資金効率を一層高めることができています。改めて、テクノロジーを活用しながらもう一段、ファイナンス領域の全体最適を推し進めたいと考えています。

一方、仕組みを整えるだけでは「総論賛成・各論反対」となり、現場レベルでの浸透が進まないおそれがあります。そこで、各セクターだけでなく、各ビジネスユニットのCFOとの連携を強化し、グローバルでのリポートラインを含めた指揮系統の再構築も進めています。

左からデロイトトーマツ長川氏、近藤氏、日立製作所加藤氏。鼎談の様子

「小さく早く間違える」を推奨し、組織基盤を強化

長川 マインドセットの変革に重きを置かれている中で、CFOとして創造性が大切だとおっしゃっていました。加藤さん自らがCFO組織に向けて、自由な発想で考えようというメッセージを発信されているのでしょうか。

加藤 先ほど申し上げたとおり、CFO組織の人財は保守的になりがちな側面があります。会計基準や税法などのルールに従い、間違えず処理する業務からキャリアをスタートするのが一般的です。

もちろん、ルールの順守は大前提です。しかし、その感覚に過度に縛られてしまうと、自由な発想で取り組んでほしい管理会計や経営計画、KPIの設定なども前例踏襲で取り組むようになってしまいます。間違いや失敗から得られる学びは非常に多いと思いますので、まずは失敗を恐れず自由に挑戦してほしいと繰り返し伝えています。

加えて、早い段階で試行錯誤し、失敗から学ぶべきというのが私の持論です。私自身、転んでもただでは起きないという気持ちを強く持っています。失敗をそのままにせず次に生かすこと。こうした経験を積み重ねていくことが、大きなリスクを取る局面で必ず生きてくるため、早くから「小さく早く間違える」ことが大事ではないかと思います。

「基本と正道」を軸に、企業価値の創出を追求し続ける

近藤 最後に、加藤さんがCFOとして大事にされていることをお聞かせください。

加藤 私は、CFOを「お金に関することはすべて責任を持つ人」と定義しています。会社にはお金に関わらないことはほとんどありませんので、必要なときは、ほかのCxOの管掌範囲であっても率直に意見を出します。

これは、リスクが極めて高い時代を迎えた今、CEO一人にすべてを押し付けない経営組織を確立するために、CxO全員が持つべき意識だと思います。これからの経営は包括的に情報をキャッチし、重層的にCEOを支える体制であるべきですし、CFOとしてその最前線に立ち続けたいと考えています。

私が大切にしている言葉の1つに、「基本と正道」があります。これは当社の指針であり、社内でも広く根付いた考え方です。フェアであること、という自身の価値観とも重なり、この言葉には深く共感していますが、CFOになり「基本と正道」を守ることが、強力な羅針盤として機能することに改めて気がつきました。

当社では、さまざまな経営判断や経営変革を一貫して続けてきた中で、つねにこの言葉に立ち返って進んできました。これからもこの指針を拠り所として、歩んでいきたいと考えています。

近藤 本日は、変革期におけるCFOの役割や取り組み、そして成長に向けた展望について具体的に伺いました。シンプルでありながら実践は難しい「基本と正道」を軸に、組織変革と成長投資を果敢に進めていく姿勢が、次なる成長を生み出しているのだと感じました。

全体最適とリスクテイクの両立を図り、CEOを重層的に支えながら持続的な企業価値向上を牽引するCFOの価値を、改めて強く認識しました。ありがとうございました。

取材後の集合写真。左から日立製作所 加藤知巳氏、デロイト トーマツ グループ 近藤 泰彦氏、デロイト トーマツ グループ 長川 知太郎氏

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