ふくおかFG「人とAIの両利き」で描く未来像 約1年でAI人材育成と施策の自走化を実現

「一歩先」のチャレンジ精神が根づく地銀グループ
「地方銀行は、窓口にご来店いただくお客様の数が激減しており、10年前と比べて半数以下になったともいわれています。このままだと、とくに若い世代では、一度も銀行の店舗を訪れたことがない人ばかりになっていくのではないかと思っています」
こう語り、危機感をあらわにするのは、FFG営業統括部 決済・マーケティンググループ 部長代理の長尾秀友氏だ。窓口での接点が減るということは、顧客と直接コミュニケーションする機会がなくなることを意味する。そうなると、価値の高い商品やサービスを有していても、適切に提案することはできない。
営業統括部 決済・マーケティンググループ 部長代理
長尾 秀友 氏
「スマートフォンで容易に情報収集できるだけでなく、最近は生成AIの普及によって、すぐに多様な提案が受けられるようになってきました。私たち銀行のほうから積極的にお客様とコミュニケーションを図り、さまざまな価値を提供していかなければなりません。そのためには、AIを徹底的に活用したデジタル上での顧客接点創出と、人の温かみによるサービスを両利きで提供していく必要があると考えました」(長尾氏)
人とAIが高度に連携し、顧客に価値を提供する――。長尾氏を中心とした決済・マーケティンググループは、この困難なミッションに真正面から取り組んだ。その原動力は「一歩先を行く発想で、地域に真のゆたかさを。」という同社グループの存在意義にあると長尾氏は話す。
「新しいものを積極的に取り入れてきた九州にあって、失敗を恐れず行動を起こすチャレンジ精神が社内に根づいています。最近の取り組みでは、2021年には国内初のデジタルバンク『みんなの銀行』の立ち上げや、個人向けアプリや法人向けポータル「BIZSHIP」などを内製開発でリリースするなど、DXへの取り組みをいち早く進めています。
システムやWebサイトなどは、外部ベンダーやSIerに構築から運用までご支援いただくのが一般的かもしれません。しかし、テクノロジーが急速に進化する中で、同じデジタル上であっても、お客様との接点のあり方は目まぐるしく変わっていきます。自ら接点創出の方法をしっかりグリップしておかないと乗り遅れてしまいますし、競争力も磨けません。ですから、人とAIの連携に関しても、早期の自走化を目指して取り組みました」(長尾氏)
住宅ローンのデジタルマーケティングをAI活用で
営業統括部 決済・マーケティンググループ 調査役
政吉 ゆかり 氏
ところが、目標は定めたものの、知見が追いつかない状態だった。FFG 営業統括部 決済・マーケティンググループ 調査役の政吉ゆかり氏は「AIについて当時あまり知識がなく、マーケティングにどうAIを活用すればいいかわからない状態だった」と振り返る。
そこで、AIを活用したデジタルマーケティングに強い会社を探した結果、電通デジタルから支援を受けることに決めた。今後、金融機能だけでは解決できない地域社会の複雑な課題が増え、非金融領域でのビジネス展開が活発化していくであろうことも見据えると、「あらゆる業界の知見を持っている」ことも決め手になったという。
加えて、AIに対するスタンスや目指す世界観でも親和性が高かった。電通デジタル トランスフォーメーションストラテジー部門 ディレクターの飯塚考浩氏は、次のように話す。
トランスフォーメーションストラテジー部門 ディレクター
飯塚 考浩 氏
「国内電通グループでは、『AI For Growth』と名付けた独自のAI戦略を推進しています。単にAIツールを導入するだけでなく、人間の知(インテリジェンス)とAIの知を掛け合わせることで顧客や社会の成長に貢献していくという考え方です。『人とAIの両利き体制』で地域の社会課題を解決し、地域経済に貢献しようとしているFFG様の戦略と一致していますので、マーケティングのご支援でもお役に立てると確信しました」(飯塚氏)
ベースとなる考え方の一致は、スムーズな協業につながる。電通デジタルが提案した住宅ローンの「デジタル広告」と「非対面接客」というテーマは、FFGのマーケティンググループにとってもうなずけるものだった。
「デジタル広告は外部デザイナーに委託して作成していますが、委託先のリソース状況などにより更新の頻度をなかなか上げられないケースがあるのが課題でした。また、住宅ローンは、商品性も手続きも複雑ですが、近年はWebで調べて手続きまで済ませるお客様が増えています。そういったニーズに十分お応えできる状態になっていなかったので、非対面接客の精度を高める必要性を感じていました」(政吉氏)
WEB上でさまざまな情報を確認したのち、さらに深い内容や疑問を解決したいと思う人は多いだろう。窓口を訪ねたくても時間が取れない場合、非対面のAIチャットボットが有用となるということだ。
そこで電通デジタルは、デジタル広告運用の効率化を図ることのできるクリエイティブ生成AIと、対話型AIチャットボットの2つの取り組みを用意。認知・集客からクロージングまでのプロセスをカバーし、顧客体験の向上につながる「人とAIの両利き体制」の整備を進めた。
「『AIにどんな処理結果を出してもらい、その結果を基に人がどう意思決定をするのか』を適切に設計し、そのためにどんなデータを学習させるのかということまでセットで考え、実行するのがAI活用のポイントです。FFG様の目的は、AI活用を内製化し、施策を自走化することですので、ただマニュアルを納品するのではなく、∞AIシリーズなどのマーケティング領域におけるAI活用ソリューションの開発・利用によって蓄積されている独自の知見もふんだんに盛り込みながら、ハンズオン形式で一つひとつ丁寧にご支援しました」(飯塚氏)
AIの基本を知ることで、根本理解を深める
注目したいのは、AIの知識があまりなかったメンバーに、根本的な部分から理解を促したことだ。飯塚氏は次のように語る。
「AI技術は日進月歩ではなく日進“週”歩ともいうべき驚異的なスピードで進化し、日々状況が変わっていますので、ありもののソリューションや単に今使っているAIツールを使えるようにするためのマニュアルをご提供するだけでは意味がありません。自走しながら活用レベルを上げ、使うツールが変わっても応用が利くようにAIの果たしている役割や仕組み、設定の要諦などをご理解いただくことを重視しています」
営業統括部 個人金融グループ 副調査役
村岡 楓 氏
実際、支援を受けたメンバーは、その効果の高さを感じている。対話型AIチャットボットの取り組みに参加したFFG 営業統括部 個人金融グループ副調査役の村岡楓氏は、「複雑な住宅ローンの説明を、AIチャットボットで果たしてできるのだろうか」と当初懐疑的だった。
しかし、「なかなか知ることのできないAIの基本構造から学び、チャットボットが活用できるのが住宅ローン検討においてどの段階で、人はどの段階で関与すべきなのか明確に理解できました。AIチャットボットに対する期待が高まっています」と話す。現在は、チャットボットの対話内容の品質検証と、事業収益に対する貢献度を見極めながら商用実装の準備を進めている。
「安心できる金融機関として選ばれるためには、有人対応とのシームレスな連携も重要だと思います。対話型AIの機能としても、人が“相談したい”と思えるAIを目指し、会話の高度化やバーチャルヒューマン化、音声応対などができるようにしていきたいと思っています」(村岡氏)
営業統括部 決済・マーケティンググループ 副調査役
三浦 なつみ 氏
クリエイティブ生成AIの取り組みに参加したFFG 営業統括部 決済・マーケティンググループ副調査役の三浦なつみ氏は、「生成AIは魔法のツールのようなもので、ボタンを押せば広告バナーが完成するのではないかと期待していました」と話す。
「でも、実際は指などの細かい描写が苦手だったり、人の目を通さないと違和感がある部分が出たりといったことがありました。想像していた魔法のようなツールとは異なりましたが、実際に動かすことで生成AIでできることと人がすべきことを知ることができてよかったと思います。海外の学習データがベースの生成AIなので日本人の顔や日本らしい風景を生成するのが難しいのですが、そのような画像の生成のコツや、著作権対策や社内のリスク部門と協議すべきことなど、電通デジタル様は実践的な内容を惜しみなく教えてくれました」(三浦氏)
継続的なAI変革で、「一歩先を行く発想で、地域に真のゆたかさを。」
なお、クリエイティブ生成AIに関しては、広告配信で一定の成果が上がっているため、商材を変えて検証の範囲を広げつつ、実際の広告運用を実施している。しかも、最初に支援を受け、AI人材として育成されたメンバーからのスキル移転が行われ、「第2世代」がすでに内製化に関わっているのだという。電通デジタルの支援がスタートしてからわずか1年にもかかわらず、AIを活用したクリエイティブ制作業務の内製化およびデジタルマーケティング施策の自走化が実現しつつあるのだ。
「こんなに短期間で、AI活用プロジェクトに参加したメンバー全員の知識レベルをきっちりと引き上げるだけでなく、マーケティング施策の自走化への道筋を整備してくれたことに驚いています」と語る前出の長尾氏は、こう続けた。「これまでも、社内では業務効率化のためのAI活用を進めてきましたが、お客様の体験価値向上につながるようなAI活用はまだ本格化できていませんでした。お客様の期待を超えた『一歩先』を行く体験を提供するため、AI活用の幅をさらに広げていくことが重要だと考えているので、今後も電通デジタル様のご支援を受けながら、AI活用の取り組みを広げていきたいと思います」

金融の枠を越え、地域社会の課題解決に取り組み、「地域に真のゆたかさ」をもたらそうとしているFFGの取り組みは、前述したように電通デジタルを含む国内電通グループが推進するAI戦略「AI For Growth」とも通底している。加速度的に人口減少が進む今、言うまでもなく地域経済の活性化は日本にとって喫緊の課題。両社の協業による価値創造は、その解決策を示す力強いロールモデルとなっていく。








