【キーマンズ・インタビュー】大学と連携して「IT人材育成コース」を実現した理由--名倉英紀・トランスコスモス人事本部本部長に聞く

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【キーマンズ・インタビュー】大学と連携して「IT人材育成コース」を実現した理由--名倉英紀・トランスコスモス人事本部本部長に聞く

IT産業の歴史は短いと思われがちだが、そうでもない。トランスコスモスは1966年に計算センターとして創立され、もうすぐ半世紀の歴史を刻む。そして、情報処理アウトソーシングビジネスの先駆者として事業を開始したのは46年前のこと。以来、情報技術とネットワークの進化とともに変容を重ねながら成長してきた。成長を支えたのは人材だ。学生を採用し、IT人材として育成し、企業にソリューションを提供する。そんな人材のプロ集団が奇妙なイベントを始めた。「就活塾」だ。その狙いを人事本部本部長・名倉英紀氏にうかがった。

−−まずお聞きしたいのは、この数年に起きた変化です。アウトソーサーとしてどのように分析されていますか?

この数年間で、リーマン・ショック、東日本大震災と原発事故、タイの洪水、ヨーロッパの信用不安と超円高などが起こり、顧客企業を取り巻く環境が大きく変わった。大きな波に対応して経営スタイルは変革されるだろう。

企業が抱える大きな課題は、持続的に成長を続けるためにいかに売上を伸ばすか、もしくはいかにコストを削減するかだ。その課題を解決するキーワードは、「IT」と「グローバル」。売上アップはITを活用し、変化するマーケットにアプローチし、グローバルは新たなマーケットとして販売することができる。コスト削減はモノが売れないからコスト削減するのではなく、ITでシステム化することで、結果的にコストが削減できるのだ。トランスコスモスはそのためのソリューションを提供している。

顧客企業を見ていると、ノンコア業務はアウトソーシングに委ね、コア業務へのシフトを強化する動きが目立つ。情報システムやヘルプデスクのような業務だけでなく、現在では人事・経理・総務などのスタッフ部門もBPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)の対象になっている。

−−アウトソーサーが数ある中で、トランスコスモスの強みは?

トランスコスモスの強みは先取性が高いことだと思う。われわれは情報技術とネットワークの進化を先取りし、インターネット利用も早い時期から取り組んだ。そして現在では、インターネット広告、EC構築、Web製作、そしてコールセンター事業を持っている。

Web製作は日本トップレベルの水準と自負している。これらの売上をあげる仕組みをすべて持っているのはトランスコスモスだけだと考えている。当社は顧客からの依頼に対し、ワンストップでソリューションを提供できる会社だ。

−−「グローバル」についてはいかがですか?

中国の現地法人は1995年に設立しており、IT企業の中でもっとも早く中国に進出していると自負している。その後に韓国、タイ、マレーシア、アメリカなどにも進出した。海外では、システム開発、コールセンター、データエントリーなどのWeb事業を手がけており、国内企業の中国進出、ヨーロッパの自動車メーカーの中国進出などを支えている。今後、海外進出は一気に加速し、ASEAN諸国に広げようと検討している。

売上高で言えば、売上高の10%にあたる150億円は海外での売上だ。従業員数は、現在国内は2万人を超え、海外の従業員は8000人を超え急速に増加している。現法に対するマネジメントについては、本社から人が行くのではなく、現地に任せている。

−−さて、「就活塾」で学生の就職支援をしようと考えた理由は?

一言でいうと、もったいないし、惜しいからだ。2013年卒の採用数はまだ確定していないが、例年200人ほどの学生を採用するために、1次面接では約4000人の学生と会う。最近の学生は「せっかくいいものを持っているのに、うまくPRできていない」という学生が多くなったと思う。

そこで昨年から採用を目的とした会社説明会ではなく、考える力、伝える力を醸成する「就活塾」を就活生対象に開催した。内容は、目的、気づきを持って行う仕事体験だ。1dayでやっているが、幸い評判が良く、口コミで広がっていくので、結果的に採用にもプラスに働いている。

昨年は800名の学生が参加したが、2013年卒の今年は200名と激減した。今年は12月1日以前の採用広報が禁止され、12月1日からのエントリー開始となりましたので、学生に十分な告知ができなかったことが影響した。

−−大学と連携したキャリア教育をスタートされると聞きました。

全国の数十万人に及ぶ就活生の数を考えれば、「就活塾」のような取り組みを大々的に展開するのは、一企業では無理だ。そこで大学と連携して「育成コース」を提供し、学生と接触する時間を増やし、経験量を積ませて成長機会を作りたいと考えている。のちの入社後のミスマッチを防ぐためにも役立つはずだ。

そこで今年から「IT人材育成コース」をある大学で開講する。2年生の秋から3年生にかけてのコースで、IT資格の取得が目的ではなく、広く社会で通用する「IT人材」の育成に主眼を置いている。

IT基礎技術に関する講座に加え、インターンシップによる実践を行い、「就活塾」ではロジカルシンキング、コミュニケーション力を養い、モチベーションを高める。これは単位認定されるコースだと考えている。

もうひとつの大学との連携も進んでおり、こちらは単位のないキャリア支援プログラムを検討している。

−−プログラム提供を広げる予定は。またプログラムを高度化はどうなりますか?

大学から申し入れがあれば、歓迎する。プログラムの高度化については考えている。ただし単位認定される講座にするためには制約が多く、簡単ではない。海外の大学では、社会のニーズに対し迅速に対応するし制約が少ないが、日本ではなかなかスピーディーに進まないだろう。企業と大学が連携することによって、そういう壁を乗り越える必要があると考えている。


名倉英紀
トランスコスモス人事本部本部長
1983年 トランスコスモス株式会社入社。システム開発、教育事業、CAD事業、ヘルプデスク事業等の事業部を経験。1990年4月 上場推進部 副部長、1992年4月 CAD事業部長、以降、経営企画本部 教育企画部長、人材開発部 部長、採用推進部 部長を歴任。2007年4月より現任。

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