「今夜の会食で予約していたのに、当日に倒産するとは・・・」 高級中華料理の名門《聘珍樓》倒産の一部始終 “3度目の倒産”は必然か
2023年5月に新型コロナが5類に移行した前後から、主力のレストラン事業の売り上げは徐々に回復していた。その一方で、関連会社が手がける百貨店内での食品販売事業の業績は改善せず、一体的に管理・運営されていた当社の資金繰りを圧迫し続けた。
「早期の黒字化を目指す」――。聘珍樓はコロナ禍が始まった2020年3月期から5期連続で大幅赤字となり、債務超過状態だった。フリーキャッシュフローもマイナスが長らく続いた。
会社側は収益改善に向けて、2024年に関連会社が運営する百貨店事業の縮小に着手。役員報酬もカットするなど大規模なリストラに踏み切り、2025年に入ると、これらの効果もあり収益改善の“兆し”が見え始めた。インバウンド効果もこうした動きを後押しした。
しかし、この間も「納入業者への支払いの遅れ」や「従業員に対する給与の遅配」といった情報が、筆者の元にも漏れ伝わってきていた。原材料やエネルギーコストの高騰、円安基調による物価高の影響を受けた個人消費の減退が続き、当社を取り巻く外部環境は厳しいままだった。
「収益改善の兆しが見え始めた」といっても、ゼロゼロ融資の返済や、滞納していた多額の社会保険料などの支払い原資を、十分に捻出できるほどではなかった。

当社が自己破産を申請する1週間前の5月中旬、地元の年金事務所による差し押さえが実施された。この事態が引き金となっていよいよ資金繰りが限界となり、翌週の5月20日付で約500名の全従業員に解雇を告げた。
レストラン事業、百貨店事業、通販事業のすべてを同日付で廃止し、翌21日に東京地裁へ自己破産を申し立てた。申請時点の負債は約12億1000万円あまり。過去2度にわたる倒産手続きを経て、負債規模はピーク時から大きく縮小していた。
3度目の倒産は必然の結果だったのか
「聘珍樓のこと、知っている?」――。5月21日、帝国データバンクとして倒産速報の配信作業が終わり、一息ついたタイミングで、筆者は同僚の若手社員数名に聞いてみた。
答えはいずれも「NO(知りません)」だった。同社破産のニュースに大きく反応した40代以上のベテラン社員たちとは対照的に、若者の多くは名前すら聞いたことがなかったようだ。
帝国データバンクの調査では、業歴100年以上を有する「老舗企業」は全国に4万5284社を数える(2024年9月時点)。明治17年創業の聘珍樓もそのうちの1社だった。抜群の知名度とブランド力を誇り、宴会や接待需要を取り込んで成長してきたが、景気低迷下の法人利用の減少を経て、コロナ禍による「生活様式の変容」が最後の追い打ちとなった。

横浜中華街自体も、かつて人気を集めた重厚感あふれる店舗から、若者が気軽に食べ歩きができるカフェスタイルの店舗や食べ放題店に、トレンドが移ってきている。こうした時代の変化にいかに対応していくか。今なお元気な老舗企業がそうであるように、「変化への適応力」が企業存続の成否を分けるものだ。
聘珍樓の「3度目の倒産」は、こうした時代の変化に取り残された末の「必然の結果」だったのかもしれない。
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