だが筆者は、以下に述べるように、どのような基準を掲げたところで、一律ではない現金給付は国民間の分断を引き起こす悪手中の悪手であると考えている。
そのため、子どもと住民税非課税世帯を手厚く支援するという石破首相のアイデアに驚いたが、さらにそれが今すぐに実行される政策などではなく、選挙公約の目玉にすると聞いてもっと驚いた。
現金給付の原資は、いわずもがな税収という名のわたしたちの血税である。それがどのような形で再分配されるかという問題は、恐ろしくセンシティブなものなのだ。
しかし、与党の幹部は、どうやら事の重大性がまるで理解できていないようである。かつて経済学者の井手英策らは、「救済型の再分配」に警鐘を鳴らした。
「制度をつくるとき、私たちは、『財源には限りがあるから、支援を本当に必要とする人にだけ財源を投入しよう』(略)という理屈についつい説得されそうになる。/この理屈は正しいように思われる。だが、そうではない。なぜなら、『本当に救済に値する人』を正しく判定することなど不可能に近いからだ」と看破した(井手英策・古市将人・宮﨑雅人『分断社会を終わらせる 「だれもが受益者」という財政戦略』筑摩選書)。
「本当に困っておられる方々」の雑過ぎる定義
今回、石破首相は、「本当に困っておられる方々に重点をおいた」と弁明したが、この言葉を字義通り受け取れば、「子どもと住民税非課税世帯」が「本当に困っておられる方々」となってしまう。
言うまでもなく、こんな雑過ぎる定義に納得できる国民はほとんどいないであろう。
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