「事実上の票の買収ではないか」との声も…。石破政権「2万円ばら撒き」公約が現役世代を完全に舐めているワケ

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また、給付金額の水準の根拠については、「家計調査をもとにして、食品にかかる消費税負担額を念頭においたうえで、物価高の影響が大きい子育て世帯と低所得者世帯の負担に特に配慮した」と話しているが、当然ながらそこには有業か無業か、正規か非正規か、あるいは資産状況や住宅事情、介護や障害の有無などは一切考慮されていない。

このような大雑把なカテゴリー分けで「本当に困っておられる方々」に現金給付が届くと本気で思っていたとしたら、頭がお花畑としか言いようがない。むろん、これは間違いなくただの詭弁であって、財政状況などの制約から導き出された結論ありきの再分配の提案だったのだろう。

だが、その代償は大きい。井手らは、「『財政収支のバランス』を優先させるために、再分配の受益者をしぼり込み、対象者を限定する際にこの言葉が使われるのである。結果として、弱者の切り捨てが横行することになる」と指摘している(前掲書)。

今回の対象は、全国民だが、再分配に傾斜を設けてしまった。驚愕するようなカテゴリー分けによって、例えば就職氷河期世代で家族形成がかなわず、非正規のまま50代に突入した人々などの「本当に困っておられる方々」には2万円のみが給付され、子どもが2人いる年収数千万円の4人家族には12万円が給付されることになる。

これは「切り捨て」のほんの一例に過ぎない。「幸福の平等」ではなく、「不幸の平等」というゆがんだ公平化を招くとして、井出らは、これを「再分配の罠」と呼んだ。ただでさえ、社会全体の経済状況が悪化し、実質的な所得減が進む中で、「限定性・選別性は、『既得権』をもつ者への嫉妬やねたみの原因となる」からである(前掲書)。

でたらめな再分配が引き起こすもの

「負担」と「取り分」の公平性に細心の注意を払わなければ何が起こるか。結局のところ「最も割を食っていると感じる層」が反発し、自分たちの「取り分」が得られるかどうかなどよりも、「既得権」が生じるでたらめな再分配に対する怒りから、現金給付という手法そのものを全否定する方向に流れることになるのだ。

現代特有の社会状況について、「人びとは、富と地位が、明確な合理性や公平性なく無秩序に分配されていると感じている。相対的剥奪感が、物質的にも地位という点でも広がっている」と分析したのは、社会学者のジョック・ヤングである(木下ちがや・中村好孝・丸山真央訳『後期近代の眩暈 排除から過剰包摂へ』青土社)。

あらゆる領域で能力主義が喧伝される社会では、このような「報酬と承認のカオス」は不公平感を醸成し、「相対的剥奪感は、『友愛的』(同等な水準の個人間の比較か、異なる水準の報酬の間での紛争)なそれから『自己本位的』(原子化された個人間の比較)なそれへと変容する」としている(前掲書)。

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