ノーベル経済学賞受賞者スティグリッツは、いまトランプ政権をどう見ているのか

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単純なこの2つを取り上げただけでも、自由放任のモデルの危うさは明らかだろう。そしてさらにスティグリッツは核心に迫る。「自由放任自体が格差拡大のメカニズムを内包している」というのだ。自由放任モデルは効率はいいとしても持てる者をますます富まし、そうでない者の得られるものはそれと比較して小さくなってしまう。

これは『21世紀の資本』のピケティにも通じる主張であるが、たとえばシミュレーション等でも簡単に確認できる。初期設定を全く平等にし、かつ完全な運で分配のばらつきが決まるモデル(つまり能力による傾斜がないモデル)でも回数を繰り返すと必ず格差が拡大する(全体の平均値は上がるが中央値は下方に乖離していく)。これに非対称性と外部性が加わった状況ではなおさらであろう。

その上で、スティグリッツは私たちに「自由とは何か」の再考を迫るのである。

市場の失敗がもたらす弊害の行き着くところ

市場の失敗と格差拡大のメカニズムの示唆は、現代社会の諸問題の多くに通底していることがわかるのではないか? そうスティグリッツは問いかけているように思う。

アメリカの経済格差は広がり続け、それはスティグリッツが経済学を志した時よりも深刻になっていて、今後も拡大するばかりかもしれない。

自由市場での自由競争により発展してきた社会が、必然的に格差拡大を助長し、分断が生じて自由競争を阻害してしまう。それが続けば、自由主義など存続できないのは明らかだ。一部の超富裕層、象徴的にはテック・オリガーキー(巨大寡占テック企業)の自由だけが拡大再生産され、99%以上の一般市民が相対的に搾取され自由を制限される。

その息苦しさをはっきりと、あるいはうすうす感じている層は、いまや圧倒的多数だろう。ソーシャルメディアの隆盛も相まって、その感情が増幅しやすくなっていることも状況をより難しくしている(ちなみにこれも一種の外部性であり瞬く間に巨大化する)。

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