次に、外観を詳しく観察していくと、舌や口腔粘膜が真っ赤に充血していることに気づきました。
さらに、解剖して体内を見ていくと、血管が拡張して臓器や組織に静脈血が溜まっている状態、いわゆる「うっ血」も確認されました。これらは、熱中症で亡くなった動物に典型的な解剖所見です。
ちなみに、熱中症と合わせて起こりやすいのが脱水症状で、水分が失われてドロッとした血液や血栓が観察されます。また、皮下組織は水分が足りず乾いた状態になっていることもあります。この子の場合も、皮下組織の乾燥や血液の濃縮といった所見が観察されました。
改めて飼い主さんに、このパグが亡くなる前後の状況を詳しく尋ねてみます。すると「車で動物病院に連れていってワクチンを打ち、その後、外出ついでに公園で運動をさせた。はしゃいで、元気いっぱいに走り回っていた」とおっしゃいます。
ワクチン接種後の激しい運動で副反応が生じることもありますが、解剖所見と、この証言とを統合して判断すると、やはり死因はワクチンによるアナフィラキシーショックではなく、真夏の公園で激しく運動したことによる熱中症だった可能性が高いと考えられました。
熱中症になりやすい短頭種
パグは短頭種(たんとうしゅ)と呼ばれ、顔が平たく、鼻が短いといった特徴を持つ犬種です。短頭種には、ほかにフレンチブルドッグ、チワワ、シーズー、ボストンテリアなどがいて、いずれも見た目のかわいらしさからペットとして人気です。
しかし、実は短頭種は健康面でいくつかの弱点を抱えています。特に、鼻が小さく短いため呼吸器に負荷がかかりやすく、熱中症にもなりやすいのです。
イヌという生きものは、人間のように汗腺を持っておらず、汗をかいてその気化熱で体温を下げることができません(正確には、肉球には汗腺があり、足の裏には汗をかきます)。その代わり、イヌは口を開けて舌を出し「ハァハァ」と呼吸することによって(これをパンティングといいます)、熱を体外に放出し、体温を調節しています。
しかし、呼吸が制限されている短頭種は、パンティングが苦手。体の熱をうまく放出できませんから、ほかの犬種よりもずっと熱中症にかかりやすいのです。