
夏の盛りである7~8月はもちろん、意外に思われるかもしれませんが、5月や10月といった初夏や初秋にも、まんべんなく病理解剖の依頼がきます。5月や10月は「そこまで暑くないから、特に注意をしなくても大丈夫だろう」という飼い主さんの油断が起きがちな時期なのだと思われます。
「動物病院で予防接種をした直後に死んでしまったんです。そのワクチンのせいじゃないかと思うんですが……」
ある夏の暑い日、50代と思われる男性がパグの遺体を抱えてやってこられました。3歳のオスのパグで、動物病院でワクチン接種をしたあと、その日のうちに亡くなってしまったのだといいます。
飼い主さんは、そのワクチンが愛犬の突然死の原因なのではないか、と疑っているようでした。
ワクチンを打ったイヌが、アナフィラキシーショックのような強い副反応を起こすことはあります。ただ、イヌのワクチンによる副反応の発生率は0.5%前後で非常に少なく、経験的にはワクチン以外が原因の死亡も少なくありません。
とはいえ、決めつけは禁物。いつものように予断を極力排し、慎重に病理解剖を進めました。
遺体に触れて感じた「異常」
まず、遺体に触れてすぐに気づいたのは、その体温の高さでした。
通常、動物は亡くなると、1時間ごとに体温が0.5~1℃ずつ下がり、やがて周囲の環境と同じ温度になります。亡くなってから半日程度経っているにしては、明らかに体温が高いと感じました。