「塞翁が馬」だからこそ人生は楽しい…山中伸弥さんが近大の卒業式で語った"二転三転"の研究者人生

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でも、これ2回目ですよね、逃げ出すのが。1回目は臨床医になろうと思ったのですが、逃げ出して研究者になったんです。そしてアメリカまで行って、今度は研究でがんばろうと思っていたのですが、ちょっとうまいこといかなくなると、また逃げ出して臨床医に戻ろうと。

さすがに2回目になると、私もなかなか踏ん切りがつかないわけです。「こんなに何度も、逃げ出していいのかな……」と。どうも踏ん切りがつかない。

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そんなときに、ある日、当時住んでいた大阪市内で散歩をしていたら、目の前にとってもいい感じの空き地があったんですね。それで僕はそのときに、その土地を買おうと思いました。その土地を買って、そこに家を建てて、そして家族と一緒に住んで、それを踏ん切りにして、研究者を辞めて、臨床医に戻ろうと思いました。

研究者よりも臨床の先生のほうが、日本では給料もいいので。アメリカだとあまり変わらないのですが、日本はやっぱり臨床の先生のほうが給料もいいですから、ここに家を建てて、それから後は臨床医としてがんばろうと。それで不動産屋に行って、手付金を払って、いよいよ契約の日がやってきました。

すると、その日いきなり、当時離れて暮らしていた母親から電話がかかってきたんですね。で、何を言い出すかと思うと、「伸弥、あんた土地を買うらしいけど、昨日の晩、お父ちゃんが夢枕に立った」と言うんです。

こう見えても僕は研究者なのに、「お父ちゃんが夢枕に立って、『伸弥に思いとどまるように言え』と、そう言った」と言うんですね。

でも僕は、「何を言ってるんだ?」と思いました。35歳くらいの息子を捕まえて、「親父が夢枕に出てきた」とか、そんなこと言われても、「もう今さら、そんなん無理だ」と思ったのですが、さすがに母親にそう言われると、1日だけ待ってみようかなと思って、不動産屋さんに電話して、「すみません。契約、今日だと言ってましたが、ちょっと明日まで待ってもらえますか?」と言いました。

で、不動産屋さんは、「はい、わかりました」と。

ところが、その日の夕方に、不動産屋さんから電話がありまして、「山中さん、申し訳ありませんが、あの土地、ほかの方に売れました」と言われたんです。

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