しかし、ナオキさんは派遣会社には残業のことは話していないという。理由は、同じように長時間労働をしていたことが明らかになった人が、仕事を回されなくなったと聞いたからだ。
働き方改革のなか、国は副業や兼業を促進している。表向きは、時間外労働の割増賃金は副業先が支払うとするルールも整備されている。しかし、仕事を失うリスクを冒してまで時間外労働を申告する労働者が、果たしてどれだけいるだろうか。
会社に対しても物言うタイプのナオキさんですら、自らの不安定な働かされ方を思うと、残業代のことは切り出せない。「要は(ルールは)機能していないってことですよね」。
空腹を無料のアイスでまぎらわせる
菓子工場で働く“メリット”は「アイスクリームを無料で食べることができること」だという。休憩中にアイスで空腹をまぎらわせ、深夜までのダブルワークをこなし、月の手取りはようやく15万円ほどになる。
父親は東京23区内にある自宅兼事業所で製本業を営んでいた。ナオキさんにはその自宅で話を聞いた。事業は10年以上前にたたんだが、壁に取り付けられた電源盤や床に残る台車の跡が往時をしのばせる。

高校卒業後は事業所で働いた。「父ははっきりとは言いませんでしたが、年収は1000万円を超えていました」と振り返る。ところが、1990年代以降は出版不況の影響で業績は悪化の一途をたどる。このため、20年ほど前から現在の物流倉庫で働き始めた。
「働けば働くほど生活が豊かになる、いい時代でした。父は自分の親を超えることができた世代。でも、息子の私は父の時代より貧しい。どんどん悪くなっています」
父親が亡くなった今は、80代の母親と40代の妻の3人暮らし。妻のアルバイト代と母親の年金を合わせると、世帯収入は毎月30万円ほどだという。家賃はかからないものの、築30年の自宅にかかる修繕費や都心の固定資産税は安くない。
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