だが、時給で働く労働者にとって、一方的なシフトカットは死活問題だ。当日の通告となると、別のアルバイトを入れることもできない。「急に休めと言われても、どうしていいのかわかりませんよね」とナオキさん。
会社の担当者に訴えたこともあるが、「賃金の6割を払っているので問題ない」と返された。“平均賃金の6割以上の休業手当を支払う”という旨を義務づけた労働基準法には抵触していない、と言いたいようだった。
しかし、みな満額の賃金が払われると見込んで出勤してくるのだ。納得できなかったナオキさんは労働基準監督署にも相談したものの、「お気持ちはわかります。でも、違法とまではいえません」と門前払いされたという。
倉庫は出版取次大手が運営。ナオキさんはこの会社が業務委託した下請け会社に雇用された請負労働者である。同僚の中にはもっと短時間で帰される人もいるという。
時給はもう何年も最低賃金に張り付いたまま。ナオキさんは「毎年秋に改定される地域別最低賃金が唯一の賃上げです」とため息をつく。そのうえシフトカットを乱発されるせいで、手取りは毎月10万円ほど。そこにきて昨今の物価高である。
バイト先で起こった、ある「異変」
ナオキさんは最近、職場のある異変に気が付いた。
「お昼ご飯のときの光景です。社員食堂の定食は400円なんですが、食べない人が目につくようになりました。食べても安い小鉢だけとか、パックのコーヒー牛乳だけですませる人もいます。ご飯の大盛も無料だったんですが、この間50円と有料になりました」
そう語るナオキさんもお昼はもっぱらカップ焼きそばだが、いくら昼食代を節約してもこれでは暮らしていけない。このため5年ほど前から大手菓子メーカーの工場でも働き始めた。
勤務時間は午後5時から10時までで、時給は1220円。仕事を掛け持ちするようになってからは倉庫の勤務を午後4時で切り上げ、週3~4日工場で働く。
工場での雇用形態は派遣。菓子メーカーは別の物流大手の関連会社に工場での業務を委託し、物流大手はアルバイトを直接雇用しつつ、派遣会社とも契約している。ややこしい構図だが、ナオキさんはその派遣会社に雇用された派遣労働者である。
主にアイスクリームを扱うので、需要が減る冬場に備えていつでも雇い止めにできる人員が必要、というわけだ。
ナオキさんは「派遣元からは固定でと言われているので、簡単に雇い止めされることはないと思います」と話す。それでも不安定な身分であることに変わりはない。
その証拠に、ナオキさんは派遣会社に残業代(割増賃金)を求めたことがないという。ダブルワークをする日、労働時間の合計は物流倉庫と菓子工場を合わせて11時間となり、1日の法定労働時間の8時間を超える。3時間の時間外労働なので、法的には派遣会社が割増賃金を支払わなければならない。
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