罰ゲーム化する管理職が知るべき「理想の上司・部下」関係のつくり方――良かれと思った部下とのランチや飲み会がNGな理由
大手からのオファーを断ってうちのようなベンチャーに来てくれた川田さんを、わずか半年で失望させたくはなかったのだ。
まずは川田さんを始めとしたマーケチームの労をねぎらい、この後問い合わせが増えることへの期待を伝えたうえで、本間さんに問い合わせ件数のチェックをお願いした。
しかし、川田さんの表情は一層くもるばかりだった。どうも川田さんは、そもそもこの企画が問い合わせ数で評価されること自体に、どうしても納得がいかないようだった。
会議室に1人残り、そうやって先ほどの会議を頭のなかでリピートしていた僕は、川田さんにスラックを投げてランチに誘ってみた。川田さんからは、先ほどの無表情が僕の悪い夢だったのかと感じさせるような、心のこもった返事が返ってきた。
久しぶりにランチを共にすると、共通の趣味であるK-POPの話で、2人の会話は大いに盛り上がった。最近髪を切った僕は、K-POPアーティストを意識したヘアスタイルにしているのだが、川田さんはそれを似合います、とほめてくれた。
ランチを終えてオフィスに戻る道すがら、川田さんの横顔はむしろ生き生きとして見えた。転職を後悔している、ということはなさそうだ。そう考える僕の心を読んだかのように、オフィスに着くと川田さんは僕に一礼し、こう言った。
「内藤さんありがとうございます、私この会社に入ってよかったです」
こちらこそ。そう返した僕の口調は、再び幹部を失う事態を避けられた安心感と、自分の成長を実感する浮いた心の後押しで、必要以上に強くなっていたことだろう。
その日の午後、フルさんのオフィスを訪ねた僕は、冒頭のエスプレッソタイムにそんな話を意気揚々と語ってみせた。しかし、それに対するフルさんの反応は、あまりよくない、などという生優しいものではなかった。
「それは要注意です」
フルさんはいすから立ち上がり、僕を指差しながら上官さながらに警告を出したのだった。
「上司と部下の関係」をつくる
僕の表情が想像以上におびえて固まっていたのだろう、フルさんは職業的な反射神経で表情を緩めた。つくり慣れた笑顔、という感じだった。
「マネジメントの一番の基本は、部下との関係づくりです」
フルさんは、立ち上がったその足でホワイトボードに向かいながらそう言った。
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