「人生100年時代」長い老後を生きるのに、同世代の友人ではなく「若い友人」が重要となる2つの理由

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社会情動的選択性理論のもうひとつの特筆すべき要素は、残された人生の日々が短くなってくると、私たちの精神がより感情面の満足感をもたらす刺激を求めるようになるという点だ。

そうした傾向があるために、いわゆる「ポジティビティ・バイアス」が生じる。高齢の人は若い人に比べて、過去の出来事を好ましいものとして記憶していて、日々の新しい経験についても否定的な印象をあまりいだかないのだ。

カーステンセンは、コロナ禍の初期にこの考え方を裏づける材料を見いだした。感染症が世界規模で流行するなかで、高齢者は若い人たちより死亡リスクが高いにもかかわらず、心理的ストレスの度合いが低かったのである。

高齢者が無理して上機嫌に振る舞っていると主張しているわけではない。時間の経過と人生における立場の変化が原因で、どのような行動を好むかが変わり、感情面で満足感を味わえる活動を取りやすくなるというのである。

長寿社会では新しい人間関係がより重要に

カーステンセンの理論には、魅力的な点が多くある。まず、平均すると高齢者が中年よりも高い幸福感をいだいていることを再確認し、その理由も説明できる。人生終盤の時期に否定的なイメージがついて回っている現状を考えると、この点を強調することの意義は大きい。

また、この理論は、具体的にどのような行動を取るべきかを指図することなく、大人の発達と人生終盤における適応とはどのようなものかを示すことができる。高齢者は、現在を生きることに長け、重要なことに集中し、良好な感情を維持することが上手になる。

もっとも、これは高齢者が高い意識と高度な知恵を備えているという意味ではない。あくまでも、時間の経過に適応して変化を遂げた結果だ。

カーステンセンの理論は、長寿化が進むにつれて私たちの行動がどのように変わるのかにも光を当てる。私たちが「旧友」と呼べるような友人をつくるには時間がかかる。平均寿命が85歳の世界で80歳になった人にとって、それはとりわけ難しい。

カーステンセンが話を聞いた高齢者のひとりはこう述べている。「80歳になると、新たに『旧友』をつくることなんてできません。年齢を考えると、そもそも不可能です」。

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