こうした研究結果を知ると、中年の人たちはたいてい驚く。この年齢層の人たちは、老いることを恐れている場合が多いからだ。カーステンセンは、この一見すると逆説的な研究結果を説明するために、大人の行動がどのように変わっていくかを分析し、人生を経るにつれて私たちは人生の目標を設定し直していくという結論を導き出した。
人は加齢とともにより賢くなっていく
こうしてカーステンセンが確立したのが「社会情動的選択性理論(SST)」だ。人はみずからの人生の有限性を認識する結果、加齢とともにより賢くなっていくという考え方を、現代風に整った形で表現した学説と言える。
まだ若くて、残された人生の日々が長い人は、教育や学習、新しい友達づくり、新しい生き方の模索など、未来志向の目標に重きを置く。しかし、年齢を重ね、残された日々が減り始めると、現在志向の目標を重視する度合いが高まる。
充実感と喜びをもたらすとわかっている既知のものに時間を費やすことを好むようになるのだ。たとえば、新しい友達をつくるより、既存の人間関係を大切にしたりする。
若い世代は高齢者に比べて、たとえ感情の面で過酷な経験になる可能性があったとしても、知識の構築や新しい可能性の探索に積極的に取り組む。それに対して、高齢になると、差し当たり充実感を味わえる目標に目が行きやすくなる。高齢の人のほうが概して幸福感が高い理由はここにある。
カーステンセンは、それが加齢のプロセスそのものの結果ではなく、残りの人生が短くなることの結果であると確認するために、さらに研究をおこなった。すると、若い人でもさまざまな理由により残りの人生に限りがあると感じている場合には、高齢者と同様の行動が見られることがわかった。
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