「二重の打撃」団塊世代75歳超の「2025年問題」と「コロナ禍」 深まる日本経済の財政依存構造と、自律性回復への期待

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さらに、コロナ禍で講じられた各対応策について経済学の見地から事後検証を行った。山本勲・慶應義塾大学教授は、コロナ以前から進行していた働き方の変化が、コロナ禍を経て、ウェルビーイング(心身の健康・幸福)における格差として明確に現れた点に着目している。例えば、在宅勤務の対応可否やAIといった新技術の職場導入がその背景にある様子が描写される。

酒井正・法政大学教授は、コロナ禍における雇用調整助成金(雇調金)の特例措置が、失業率の上昇をどこまで抑制できたか、また給付水準や支給期間が適切であったかといった観点から、今後の雇用政策への示唆を含む検証を行っている。

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また、コロナ禍で特例的に実施されたゼロゼロ融資(新型コロナの影響で売り上げが減少した中小企業や個人事業主を支援するための実質無利子・無担保の融資)について、植杉威一郎・一橋大学教授は、その功罪を明らかにする。ゼロゼロ融資は、困難な状況にあった中小企業の資金繰り支援に貢献した一方で、融資利用企業の業績向上には直結しなかった点を指摘する。

さらに、伊藤由希子・津田塾大学教授(当時)は、医療現場における「有事」対応から「平時」の医療体制への教訓を引き出している。発熱外来の一時診療を皮切りに、コロナ病床および人材の確保、入院調整の問題点が検証され、平時に整備されていなければ有事に大きな混乱を招くことを明らかにした。

これに加え、数々の財政支援策に関しては、会計検査院が公式に調査を開始している。布製マスクの配布、持続化給付金、病床の確保、さらには巨額の予備費について、田中弥生・会計検査院長(当時)との対談を通じ、検査結果が明らかにするコロナ対策の実態に迫る。

再興されるべき自律性

「もはやコロナ禍ではない」と大半の人は認めるだろう。

しかし、我々の経済社会構造の根源には、コロナ前にはあった健全な自律性が失われた面があることを思い知らされる。近い将来、それに気づき依存構造を断ち切る人々の営みが再興されることを期待したい。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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