企業関係者が知るべき「自然関連情報」開示とは TNFD報告書で企業の環境戦略を可視化する

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2つ目のポイントは、企業の「何が」「どこで」「どのように」自然と関係しているのかについて分析ができているかどうかだ。

まず「何が」自然と関係しているかの分析だ。金融業や小売業、農林水産業など業種によって自然との関係の仕方はまったく異なる。また、同じ小売業でも扱っている商材により自然との関係はさまざまだ。どの分野において自社が自然と強く関係しているかをつまびらかにする必要がある。

「どこで」「どのように」……これらが企業と自然の関係を分析するうえでのカギになる。例えば、同じ作物でもブラジルの熱帯雨林を切り開いて生産された作物と、日本の荒廃農地を利用して生産された作物では自然に対する影響は異なる。また同じ土地でも、最新の摂水技術や無農薬栽培で生産されたものは、そうでないものと比べて自然への負の影響は小さくなるだろう。

森の日陰で栽培されるカカオ。在来樹木を一掃してつくられるモノカルチャー農園よりも環境へのマイナスインパクトが小さいと考えられている。同一コモディティでも、場所や製法により自然との依存・影響関係が異なる一例  © WWF / Jaap van der Waarde

しかし、「どこで」「どのように」を明らかにすることは簡単ではない。特に、原材料を外部から調達している企業は自社の拠点から遠く離れた商流(バリューチェーン)上で自然資本との関係が強い。商流をたどって、「どこで」を明らかにし、「どのように」を確認することは一朝一夕でできることではない。そこで、TNFDの推奨する「LEAPアプローチ」を用いて、商流全体から企業が自然資本と密接に関係する場所を特定し、依存・影響度合いを分析することが大切だ。

LEAPアプローチとはLocate(発見)、Evaluate(診断)、Assess(評価)、およびPrepare(準備)の4つのアクションの頭文字をとった言葉で、自然との接点、自然との依存関係、インパクト、リスク、機会など、自然関連課題の評価をするための統合的なアプローチを指す。

注意したいのは、企業と自然資本との関係について、一般論を超えた分析ができているかどうかだ。例えばコーヒー豆に関するTNFD開示で、コーヒー豆生産が引き起こす、環境問題や人権問題などについてインターネットで検索すれば分かるような記載のみでは自然資本の保全にはつながらない。

各社固有の「何が」「どこで」「どのように」に基づく課題が開示されていて初めて、TNFDの4つの柱と呼ばれる「ガバナンス」「戦略」「リスクとインパクトの管理」「指標と目標」の適切性が判断できる。

マイナスインパクトへの対策が書かれているか?

3つ目のポイントは、企業の森林や生態系の破壊などのマイナスのインパクトの軽減・回避策が示されているかである。企業のもたらす自然資本へのマイナスのインパクトは当事者である企業しか対応することができない。自社の商流全体を確認してマイナスインパクトの点検をする必要がある。

例えば調達している農産物が森林破壊につながっているかどうかは、商流をたどって確認しない限りは分からない。企業が知らぬうちに森林を破壊している農家から農産物を買い続けていれば、その森林は破壊され続けてしまう。マイナスのインパクトを止められるのは買い手の企業だけである。企業の出しうる自然資本へのマイナスインパクトの確認、及び回避・軽減策は開示の大事なポイントだ。

「ネイチャーポジティブ」という単語が社会で広まる中、企業の間では社会に対する良い取り組みをTNFD報告書に記載しなければいけないと考えがちだ。しかしネイチャーポジティブの第一歩は、自然に対するマイナスのインパクトを正しく認識することである。

火入れされたインドネシア・リアウ州の泥炭地。熱帯泥炭地は生物多様性に富み炭素貯蔵量も多いが、開発により多くの泥炭地が失われている。商流上のこのような環境破壊は「知らなかった」では済まされない © WWF / Matthew Lee

都市部や工場の周りに花や木を植え、職場や近隣環境をよくすることも大切な取り組みではあるが、TNFD開示で求められる内容とは基本的には異なる。商流の奥深く、遠く離れた場所で自らが引き起こしている大きな環境破壊に目をつぶっていたら「グリーンウォッシュ」(まやかしの環境対策)とも批判されかねない。

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